2025年10月末に発表された商工中金マーケティング部の「中小企業のカーボンニュートラルに関する意識調査」は、全国4,000社超の中小企業を対象とした最新の大規模調査です。
カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を実質ゼロにする取り組み)は、いまや大企業だけの話ではありません。中小企業にもその波が確実に押し寄せています。
本記事では調査結果をもとに、中小企業の現場で何が起きているのか、どんな課題や可能性が見えてきたのかを解説します。
カーボンニュートラルの影響を感じる企業は7割超
調査によると、「カーボンニュートラルの影響を受けている」と回答した企業は全体の 75.6% に上りました。
つまり、4社のうち3社が何らかの形でこの流れを実感しているということです。
中でも「省エネルギー化」「電気自動車の普及」「化石燃料の削減」などの項目では、「好影響がある」と答える割合が増加しており、2023年調査時よりもポジティブな見方が広がっています。
一方で、「環境税導入によるコスト増」などを懸念する声は減少傾向にあります。
自由記載でも、
「環境貢献型製品の需要が伸びている」(その他卸)
「国産材や木材需要の再評価で林業再生のチャンス」(木材製造)
といった“前向きな変化”を感じ取るコメントが目立ちました。
つまり、中小企業の多くが「脱炭素化はリスクではなく、新たなビジネスチャンス」として捉え始めているのです。
取組を実施・検討している企業は4割強。製造業が先行
次に「カーボンニュートラルへの方策」を実施・検討している企業の割合を見ると、全体の44.1% に達しました。
2023年調査と比べて横ばいですが、製造業では進展が見られ、非製造業ではやや後退しました。
具体的な取組内容では、
- 「自社のCO₂排出量の測定」(+4.8ポイント増)
- 「削減目標の設定」
- 「業務プロセスの改善を通じた省エネ」
など、自社の現状を「見える化」する動きが顕著に増えています。
また、「太陽光など自家発電設備の導入」や「CO₂排出量の低い原材料の調達」といったサプライチェーン全体を見据えた取り組みも進んでいます。
特に「輸送用機器」業界では外部からの要請により、対応を検討・実施している企業が5割を超える結果となりました。
動機の中心は「コスト削減」と「企業イメージの向上」
カーボンニュートラルに取り組む動機を尋ねたところ、最も多かったのは「エネルギーコストの削減」(36.2%)。
これに「企業イメージの向上」(33.0%)、「補助金・税制の優遇」(29.4%)が続きました。
この結果からは、“環境対応=コスト負担”という旧来の認識から、“環境対応=経営改善・ブランド力強化”という発想への転換が見て取れます。
製造業では「外部からの要請」(44.7%)が目立つ一方、非製造業では「動機になるものはない」(24.0%)という回答も一定数あり、業種間の温度差が浮き彫りになりました。
興味深いのは、実施している企業では「企業イメージの向上」や「エネルギーコスト削減」が動機の上位にあるのに対し、実施していない企業では「規制強化への懸念」「補助金・税制の優遇」など“外的要因”が主である点です。
この差は、能動的な企業と受動的な企業の二極化を示しています。
課題は「コスト」と「人材不足」、次の壁は“実行力”
調査では、方策を実施・検討する際の課題として「対応コストが高い」「人材がいない」「既存設備では対応が難しい」などが上位に挙げられました。
以前上位だった「規制やルールが決まっていない」「情報が乏しい」といった“情報不足型の課題”は減少し、より現実的・実務的な課題に移行していることがわかります。
自由記載にも次のような声が寄せられています。
「経営層に必要性の認識が薄く、コスト負担が大きい」(金属製品製造)
「取組は必要だが、中小企業単独では限界がある。社会全体で負担を共有すべき」(食料品製造)
「自分たちに何ができるのか具体的な手段がわからない」(不動産業)
つまり、「やる意志はあるが、実行力をどう確保するか」が中小企業に共通する課題といえます。
生物多様性・自然資本保護にも関心が拡大

今回の調査では、「生物多様性・自然資本保護」への取り組みも初めて本格的に分析されました。
結果は、45.1%の企業が何らかの方策を実施・検討中と回答。
カーボンニュートラル対応(44.1%)とほぼ同水準であることは注目に値します。
具体的な取り組みとしては、
- 「業務プロセスの改善を通じた環境負荷の低減」
- 「廃棄物や水使用量の測定」
- 「環境配慮型製品の開発」
などが多く、CSR(企業の社会的責任)の一環としての動きもみられます。
自由記載では、
「道路防雪林の設計と育成支援」(サービス業)
「使用後のアルミチューブを製鉄会社に販売」(製造業)
「森林認証材の購入」(木材関連卸)
といった、地域や本業に根ざした取り組み事例も紹介されています。
さらに、「カーボンニュートラル対応はしていないが、生物多様性では取組中」という企業も25.9%存在し、環境分野全体への関心が裾野から広がっている様子がうかがえます。
自由記載に見る“現場のリアルな声”
調査の自由記載欄には、企業の本音が凝縮されています。
2025年調査では、自由記載率が過去最高の 12.6% に達し、前年(11.5%)から増加しました。
内容を分析すると、「取組が必要」とする回答は28.6%(前回23.6%)に増加。
「カーボンニュートラルを経営課題として認識する」という意見が顕著に増えています。
一方、「取組は不要・不可能」という回答の中では「優先順位が低い」という意見が多く、経営資源の限られた中小企業ならではの現実も見えます。
以下は代表的な記載内容です:
「3R(リデュース・リユース・リサイクル)を意識した環境配慮型製品の開発」(製造業)
「CO₂削減コンクリートの開発に挑戦」(窯業・土石業)
「Scope1・2の排出量を算定し、取引先の要請に備えている」(運輸業)
「ISO14001の仕組みを活かし、取引先の要請があればさらに対応を進めたい」(輸送用機器製造)
これらの声からは、“待ちの姿勢”から“準備する姿勢”への変化が感じられます。
カーボンニュートラルが、もはや「遠い未来の話」ではなく、日常的な経営テーマになってきていることが分かります。
今後の展望:地域・業界ぐるみの支援体制づくりが鍵
この調査から明らかなのは、中小企業の脱炭素への意識が確実に高まっているという点です。
しかし、行動に移すには依然として「コスト」「人材」「ノウハウ」の壁が大きく、行政や金融機関、支援機関のサポートが不可欠です。
特に今後注目すべきは、
- 脱炭素経営に取り組む企業への補助金・金融支援の活用
- CO₂見える化支援ツールや認証制度の普及
- 地域レベルでの異業種連携(例:製造×物流×IT)
などです。
商工中金や自治体では、「脱炭素経営支援ローン」や「サステナビリティ・リンク・ローン」など、資金面の後押しも強化されています。
こうした支援を上手に組み合わせることで、中小企業も現実的な形でカーボンニュートラルを経営戦略に組み込むことが可能です。
まとめ:中小企業の未来は「環境×経営の両立」にあり
今回の商工中金の調査から、中小企業の多くが「カーボンニュートラルの時代をどう生き抜くか」を真剣に考え始めていることが明らかになりました。
調査の自由記載には次のような印象的な言葉があります。
「環境負荷の低減は避けて通れない経営課題。喫緊の課題として真剣に検討している」(サービス業)
カーボンニュートラルへの取り組みは単なる“環境対策”ではなく、企業の持続的成長を支える経営戦略です。
今後、中小企業がこの潮流をどうビジネスに結びつけるかが、競争力の鍵となるでしょう。脱炭素の流れは「大企業が決めた基準に従うだけ」の時代から、「中小企業自らが価値を創る時代」に移りつつあります。
本調査はその変化を裏付ける、重要な一歩といえます。


