中小企業を取り巻く経営環境は年々厳しさを増しています。国内市場の縮小、海外メーカーとの競争、人材不足といった課題は、従来の枠組みにとらわれた経営だけでは乗り越えることが難しくなっています。こうした背景の中で注目を集めているのが 、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法である「「デザイン経営」 です。
デザイン経営 https://www.jpo.go.jp/introduction/soshiki/design_keiei.html
本記事では、特許庁デザイン経営プロジェクトチームが行った、デザイン経営支援プログラムに参加した中小企業を対象とした最新調査を紹介します。本調査では、デザイン経営の効果や支援ニーズ、さらにその取組と効果発現のプロセスが明らかになりました。
経営者や支援者にとって実践的なヒントが多く含まれていますので、ぜひ自社の経営戦略の参考にしてください。
中小企業におけるデザイン経営の効果に関する調査https://www.jpo.go.jp/introduction/soshiki/design_keiei/kouka.html
背景と目的
2018年、経済産業省と特許庁は「デザイン経営宣言」を発表しました。これを機に全国各地で支援施策が広がりましたが、その効果は数値化しにくく、中小企業への普及が難しいという課題が残っていました。
今回の調査の目的は、
- デザイン経営の効果を明確化すること
- 支援へのニーズを把握すること
にあります。
特に、支援機関が説得力をもって有用性を伝えられるようにし、中小企業の実践を広げる好循環を作ることが狙いです。
本調査の全体像
調査対象は、中部・近畿地方で実施された9つのデザイン経営支援プログラム。
代表的なものとして、DESIGN COLLECTIVE TOKAI、関西デザイン経営推進事業、奈良市デザイン経営フロントランナー育成プログラム、ミライ経営塾 Wonders などがあります。
方法は、
- 90社超にアンケートを送付(57社から回答)
- 22社へのインタビュー調査
- 支援機関7団体へのヒアリング
を組み合わせて実施されました。
回答企業の多くはBtoB企業で、デザイン経営を主導したのは社長や経営陣が中心。つまりトップ主導で進められていることがわかります。
デザイン経営の効果

財務的効果
売上増加、粗利益率改善、新規顧客の獲得などの成果を実感した企業は約半数でした。
非財務的効果
一方で、9割近い企業が「組織文化や風土の改善」「従業員の主体性向上」「顧客との関係深化」といった変化を感じています。
効果の3つの柱
インタビュー調査を通じ、デザイン経営の効果は以下の3つに整理されました。
- 自社らしさの明確化
- 人材の採用と定着化
- 新しい仕事の創出
例えば、自社の歴史や理念を言語化することで、採用市場での魅力が高まり、定着率が改善。さらに従業員主体の新規事業や新商品が生まれるといった好循環が確認されています。
デザイン経営支援へのニーズ
参加理由には大きく2つの傾向がありました。
- 組織変革や風土改革を目指す長期的視点
- 新商品開発やブランディング強化といった短期的成果の追求
多くのプログラムはまず「自社らしさ」の明確化から始まります。これは将来の意思決定の軸を形成するためであり、参加企業の満足度向上や継続率向上につながっていました。
実際に、
- 61%がプログラムを高く評価
- 49%が終了後も継続実施
という結果が出ています。
今後の期待としては、
- 企業の状況に応じた柔軟な支援
- 外部人材との円滑な連携支援
- 継続的な体制づくりのサポート
が求められています。
デザイン経営の取組と効果の発現
調査では「デザイン経営の効果発現モデル」が提示されました。
プロセスの例
- 参加前
自社の強みや将来像が曖昧で、人材や新規事業に課題を抱える。 - 参加中
ワークショップを通じて「自社らしさ」を言語化し、従業員との対話を重ねる。 - 参加後
経営者と従業員の共通認識が育ち、組織文化が変わる。さらに社外への発信を通じて新しいパートナーや顧客とつながる。
この流れの中で、「自社らしさの明確化」「人材の採用・定着」「新しい仕事の創出」が相互に影響し合い、連鎖的に効果が発現していきます。
まとめ
今回の調査から見えてきたのは、デザイン経営が 中小企業の持続的成長を支える経営手法 であるという事実です。
- 財務的効果は時間を要するものの、非財務的効果は早期に表れ、組織変革や人材強化に直結する。
- 支援プログラムはその起点として有効であり、継続支援や柔軟な設計が今後の課題。
- デザイン経営は「未来への投資」であり「競争力強化の武器」となる。
経営環境が厳しさを増す今こそ、自社の「らしさ」を見直し、デザイン経営を経営の中心に据えることが求められています。