近年、全国的に事業承継を迎える中小企業が急増しており、「後継者に代替わりしたが、その後の成長戦略に悩んでいる」といった声が多く聞かれます。
東京都では、そんな企業を後押しする施策として、「令和7年度 事業承継を契機とした成長支援事業」を実施します。この補助金制度は、単なる設備投資や広報活動の資金援助にとどまらず、“事業承継後の成長戦略を具体化する”という観点から非常に優れた支援策です。
この記事では、制度の目的や仕組み、対象要件、申請手続きの流れ、そして活用のポイントまで、わかりやすく解説していきます。
事業承継を契機とした成長支援事業https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/jigyo/shokei-seicho/index.html
事業の目的は「事業承継を成長のチャンスに変えること」
本補助金の最大の特徴は、事業承継後の企業を「成長フェーズに引き上げること」を目的としている点です。
単に先代からの引継ぎで終わるのではなく、新たな視点・ビジョンをもった後継者が、自社の強みや市場ニーズを分析し、未来に向けた「攻めの戦略」を実行することが求められています。
たとえば、既存事業に加えて新たな顧客層へ向けた商品開発を行ったり、自社にない技術や設備を導入して、全く異なるサービスを展開するなど、「新規事業展開」を具体的に進める必要があります。
そのような“チャレンジ”を下支えするのが、この成長支援事業なのです。
助成対象となる企業と経費の範囲
対象となるのは、東京都内に本社または支店を持つ中小企業(法人または個人事業主)で、令和4年4月1日から令和7年3月31日までの間に事業承継を完了している事業者です。
法人であれば、代表者交代に加えて、後継者が筆頭株主である必要があります。個人事業主の場合も、廃業・開業の手続きとともに、事業用資産の引継ぎがなされていることが条件です。
助成の対象となるのは、「新規事業展開」に必要な経費です。ここで重要なのは、“既存事業の延長”ではなく、“新たな事業領域への挑戦”であること。
たとえば、美容室が店舗に写真スタジオを併設し、七五三や成人式用のトータルサービスを提供する場合や、製造業が業務用機器に加えて家庭向けの商品を開発するようなケースが該当します。
このような取り組みに必要な、設備導入費、原材料費、広報活動、システム導入などの幅広い費用が助成の対象となります。
助成金額と支援内容の詳細
本事業では、最大で800万円の助成金が交付されます。助成率は原則として2/3ですが、一定の条件を満たすことで最大4/5まで引き上げられる点も見逃せません。
具体的には、助成事業完了後の1年間にわたり「賃金引上げ計画」を実施した場合、中小企業者は3/4、小規模企業者は4/5という高い助成率が適用されます。
この制度は単なる資金援助にとどまらず、従業員の処遇改善にもつながる好循環を促す仕組みといえるでしょう。
さらに、事業実施の過程では、アドバイザー(専門家)の派遣が2回まで義務付けられており、1回目は希望時、2回目は完了検査のタイミングで実施されます。助成金を受けるために必要な実務面のサポートも充実しており、安心して取り組める制度設計がされています。
申請要件と準備すべき書類
申請にあたっては、いくつかの要件を満たす必要があります。まず、東京都内に拠点があること、次に令和4年4月から令和7年3月末までに事業承継が完了していること、そして後継者が筆頭株主であることが求められます。
このほかにも、公的資金を適切に活用できる状態であるか、過去に不正行為や滞納歴がないか、必要な許認可を取得しているかなど、基本的な要件が整っていることが前提となります。
申請には、「GビズIDプライム」の取得が必須です。書類はWebから提出する形となっており、事業計画書、収支計画、事業承継の証明書類、見積書など、多岐にわたる準備が必要です。
そのため、可能であれば中小企業診断士や支援機関など専門家のサポートを受けて進めることをおすすめします。
審査のプロセスと採択のポイント

本制度では、単に書類を提出すればよいというわけではありません。申請後には、書類審査と面接審査の2段階が用意されており、特に後者では事業者自身によるプレゼンテーションが求められます。
審査では、新規事業としての革新性や成長可能性、計画の実現性、助成金の有効な活用計画が重視されます。単に設備を買い替える、広告を打つといった単発的な内容ではなく、事業全体の中で「どのように新規事業を立ち上げ、利益につなげていくのか」というストーリーが必要です。
また、審査通過後にも、助成事業の実施→実績報告→完了検査→助成金交付という流れがあり、全体の管理運営能力も重要視されるため、綿密なスケジュール管理が求められます。
成功事例に学ぶ、補助金の活かし方
実際に過去の類似事業で採択された事業者の中には、承継後に社内のIT化と新たなサービス業態を両立させ、売上を倍増させたケースもあります。
また、従業員の賃金引き上げ計画を積極的に推進し、補助率を最大に活用した企業も存在します。
このような事例に共通しているのは、いずれも「経営戦略として補助金を位置付けていた」という点です。単に「補助があるからやる」のではなく、「やりたいことを実現する手段として活用する」という視点が成功の鍵となります。
申請スケジュールと注意点
申請の受付は、令和7年7月1日(火)午前9時から開始され、7月31日(木)午後4時までとなっています。この1か月間が勝負のタイミングです。
ただし、提出内容に不備があった場合、書類不備の確認・修正対応に時間がかかり、結果的に申請が通らなくなる可能性もあります。申請が殺到した場合は、早期締切もあり得るため、早めの準備が求められます。
また、審査に関する問い合わせには原則応じてもらえませんので、自信のない点は事前に専門家と確認しておくと安心です。
まとめ|承継を“守り”ではなく“攻め”の経営に転換する絶好のチャンス
「令和7年度 事業承継を契機とした成長支援事業」は、後継者として経営を引き継いだ方にとって、成長のための“起爆剤”となる可能性を秘めた制度です。
資金的な支援はもちろんのこと、アドバイザーによる実務サポート、賃金向上による従業員満足度の向上、そして何よりも“未来に向けた新規事業”を後押ししてくれるという点で、非常に魅力的な支援内容となっています。
補助金制度は単なるお金の問題だけでなく、「経営を見つめ直し、次のステージへと進むきっかけ」にもなり得ます。
今回の制度を活用して、「承継後の経営」を“守り”から“攻め”に切り替えてみてはいかがでしょうか?
申請を検討される際には、募集要項をご確認の上、ご不明な点は事務局や専門家にご確認下さい。
募集要項