従業員の安心・安全な職場づくりが強く求められる今、企業にとって“見えないリスク”のひとつが「カスタマーハラスメント(カスハラ)」です。暴言や執拗なクレーム、土下座の強要など、理不尽な要求が従業員の精神に大きなダメージを与える例が相次いでいます。
こうした課題に対応するため、東京都は2025年6月、「カスタマーハラスメント総合相談窓口」を開設しました。この窓口では、カスハラに悩む企業や従業員を対象に、無料で相談・助言・情報提供を行う体制を整えています。
この記事では、この窓口の概要をはじめ、東京都が進める条例・ガイドライン、カスハラ対策セミナーなどを、中小企業支援者の視点でわかりやすく解説します。
カスタマーハラスメントとは?企業に与える影響
「カスタマーハラスメント(カスハラ)」とは、顧客や取引先がその立場を利用し、サービス提供者や従業員に対して不当な要求や威圧的な言動を行うことを指します。
たとえば以下のような事例が典型的です。
- 長時間にわたるクレーム電話での拘束
- 土下座や繰り返しの謝罪要求
- 大声で怒鳴りつける、暴言を吐く
- SNSでの誹謗中傷や風評拡散
- プライベートへの不当な干渉
これらの行為は、サービスの枠を超えた“ハラスメント”であり、従業員に精神的・身体的ダメージを与えるばかりか、職場環境の悪化、離職率の上昇、企業イメージの毀損といった多大なリスクを伴います。
2025年6月開設|東京都カスタマーハラスメント総合相談窓口とは?
この窓口は、東京都が「カスタマーハラスメント防止条例」に基づいて設置した相談窓口です。都内の事業者や従業員を対象に、カスハラに関する相談を無料で受け付け、専門的な助言や支援につなぐ役割を担っています。
✅ 基本情報
- 開設:2025年6月
- 対象者:
- 東京都内で就労するすべての従業員
- 都内の企業・事業所の経営者、人事担当者
- 費用:完全無料・匿名相談可能
✅ 相談方法
- 電話番号:📞 0120-182-276
- 受付時間:平日 9:00〜17:00(年末年始・土日祝除く)
- Webフォーム(24時間受付):
https://www.customer-harassment-taisaku.metro.tokyo.lg.jp/consultation/
✅ 相談内容の例
- 顧客対応中に土下座を強要されたが、どこに相談すればよいかわからない
- 社内でカスハラが続発しており、対応マニュアルを整備したい
- 被害を受けた従業員のメンタルケアの手段を知りたい
- クレーム対応とハラスメントの線引きが難しい
初期的な悩みから法的対応の必要性の判断まで、専門家と連携した支援が受けられます。
東京都カスタマーハラスメント防止条例とは?

この条例は、2025年4月に施行された日本初の自治体によるカスハラ防止条例です。
条例の目的は、カスハラから働く人々を守り、都民・事業者・行政が一体となって、適切な顧客対応と職場の安全を両立させることにあります。
主な内容:
- 都が相談支援体制(今回の窓口)を整備
- 事業者に対して、未然防止や再発防止の体制整備を「努力義務」として要請
- 都と区市町村が連携し、普及啓発を推進
全文はこちら:
https://www.reiki.metro.tokyo.lg.jp/reiki/reiki_honbun/g101RG00005328.html
カスハラ対策ガイドライン(防止指針)の要点
東京都は2024年、「カスタマーハラスメントの防止に関する指針」を策定しました。これは企業が組織的にカスハラに対応するための「ガイドライン」であり、次のような観点からの取組が推奨されています。
- 就業規則やマニュアルでカスハラ対応を明文化
- 対応フロー(誰が・いつ・どのように対応するか)を社内共有
- 従業員研修で対応力を底上げ
- 被害発生時の記録・報告・ケア体制の整備
ガイドラインの全文(PDF)はこちら:
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuharashishin0612.pdf
中小企業向け|東京都主催のカスハラ対策セミナーも開催中
東京都は、相談窓口と並行して、中小企業を対象としたカスタマーハラスメント対策セミナーを定期的に開催しています。
内容は実践的で、以下のようなプログラムが含まれます。
- カスハラの判断基準と法的リスクの整理
- 対応マニュアルの作成・運用ノウハウ
- ケーススタディによる対応演習
- 社内教育の進め方と研修事例の紹介
特に人事担当者・店舗責任者向けに設計されており、各回50名程度の少人数制。参加は無料、要事前申込となります。
詳細はこちら:
https://www.tokyo-kosha.or.jp/topics/2506/0020.html
支援者として私たちにできること
中小企業診断士や各種支援者にとって、カスハラ対策は単なる労務対応ではなく、事業継続と職場定着の基盤づくりです。
- カスハラ対応のための就業規則の見直し支援
- 企業規模に応じた社内マニュアル・研修の設計
- 窓口や弁護士等の外部リソースの紹介
- 事例紹介や価格転嫁交渉を含む制度アドバイス
とくに相談窓口の活用を前提にした「社内リスク対策モデル」の構築支援が、今後は大きな役割を果たすといえます。
まとめ|従業員を守れる会社が、信頼される会社になる
カスハラは見えにくく、対応が難しい課題です。しかし放置すれば、職場に深刻な影を落とし、人が離れ、事業が立ちゆかなくなる原因にもなりかねません。
だからこそ、東京都が設置した「カスタマーハラスメント総合相談窓口」は、企業と働く人の双方にとって、大きな希望であり、第一歩です。
経営者も、現場も、支援者も。迷ったらまず相談してみる——その姿勢こそが、職場の安心を守り、未来の信頼をつくることにつながるのではないでしょうか。