中小企業の取引の現場で、依然として問題となっているのが「下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法)」に関する違反行為です。令和6年度の実績報告が公表され、その中で浮き彫りとなったのは、取引における不公正な慣行や支払遅延、下請代金の不当な減額などの実態でした。
本記事では、中小企業庁が実施した調査結果と改善指導、そして具体的な違反事例をもとに、下請法の運用状況と中小企業が知っておくべきポイントを詳しく解説します。
なお、令和7年5月23日に公布された「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」により、令和8年1月1日より、「下請代金支払遅延等防止法」の名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に変更となり、「下請事業者」は「中小受託事業者」、「親事業者」は「委託事業者」と称されることになります。本ブログでは変更前の名称等で記載しております。
下請法とは何か?その目的と意義
まず、下請法は、中小企業などの「下請事業者」が、大企業などの「親事業者」との取引において、不利益を被ることがないようにするための法律です。この法律の目的は、公正な取引環境の確保と下請事業者の利益保護にあります。
親事業者が下請事業者に対して、不当に代金を減額したり、支払いを遅らせたり、書面を交付しなかったりすると、下請法違反となり、行政指導や場合によっては公正取引委員会による措置もあり得ます。
令和6年度の調査結果:親事業者の5,801者に注意喚起
令和6年度、中小企業庁と公正取引委員会は、親事業者5.5万者、下請事業者24万者を対象としたオンライン調査を実施しました。その結果、5,801者の親事業者に対し、下請法違反の疑いがあるとして注意喚起文書が発出されました。
これは前年の7,065者からは減少しているものの、依然として高い水準であり、下請事業者の立場の弱さや違反の構造的要因が根強く存在していることを物語っています。
立入検査と改善指導:703者中584者に対し指導
オンライン調査や下請事業者からの申告などを踏まえ、中小企業庁は703者の親事業者に対して立入検査を実施。結果として1,321件の違反行為が確認され、584者に対して改善指導が行われました。
特に注目すべきは、買いたたきや下請代金の減額、支払遅延といった禁止行為が多く、これらが全体の違反件数の約87%を占めています。さらに、書面不備や書類未保存といった手続き上の違反も多数発覚しており、形式面の不備も大きな課題です。
実際にあった下請法違反の具体例
以下は令和6年度に報告された下請法違反行為の実例です。実際にどのような行為が「違反」とされるのかを知ることで、取引の適正化に役立てていただけます。
支払条件を満たさない事例(プラスチック製品製造業)
支払条件を「翌月末日払い」と定めながらも、実際には“歩引金”として金利相当分を返金させていた。これは不当な代金減額に該当します。
販売支援名目での代金減額(機械器具卸売業)
「販売支援」と称して、下請代金から一定額を差し引いていた。これも下請事業者の責任ではない減額として違反になります。
不当な保管要求(化学工業)
使用実績のない金型を長期間、無償で下請事業者に保管させていた。経済上の利益を不当に提供させる行為として違反に該当。
発注数量超過分の無償取得(印刷関連業)
発注数量以上の製品を良品として受領しているにもかかわらず、代金を支払わなかった。これは実質的な「ただ働き」を強いるものです。
支払遅延と利息未払い(各種商品卸売業・情報サービス業)
支払日を超えて代金を支払ったうえ、遅延利息を支払っていなかったケース。これも典型的な下請法違反行為です。
自発的な改善と返還事例も

改善報告を提出した594者の親事業者のうち、201者が合計約1億5,700万円分の代金や遅延利息を下請事業者に返還しました。さらに、自発的な申告により、16件の案件で合計約5億4,400万円が返還されています。
このうち、1件はドイツ系自動車部品メーカー「クノールブレムゼ商用車システムジャパン(株)」によるもので、「One Time Bonus」と称して不当に代金を減額した行為が指摘され、下請事業者9者に対して6,700万円が返還されました。
違反が多かった業種と今後の注意点
違反件数が多かった業種の上位は、以下の通りです。
- 機械器具卸売業(80件)
- 生産用機械器具製造業(79件)
- 道路貨物運送業(53件)
これらの業種では、価格交渉の機会不足や発注・受注の関係性におけるパワーバランスの偏りが背景にあると考えられます。
令和6年度の結果からは、親事業者側における下請法遵守の体制構築が不十分であることが読み取れます。特に価格転嫁の場面においては、原材料費や人件費の上昇にもかかわらず、単価据え置きが続くなど、下請事業者の負担が増している実態があります。
中小企業経営者と支援者がとるべき行動
中小企業経営者や支援者にとって、下請法の理解と適切な運用は避けて通れないテーマです。特に以下の点を重視しましょう。
- 契約書面や発注書を必ず作成し、必要事項を明記する。
- 支払期日を遵守し、遅延があった場合は利息も支払う。
- 原価上昇時には価格交渉を適切に行い、その記録を残す。
- 親事業者からの不当な要請や圧力がある場合は、専門家や公的機関に相談する。
違反がある場合には、公正取引委員会や中小企業庁が設けている相談窓口に通報することで、取引環境の是正に繋がります。
下請法の考え方についての相談窓口https://www.jftc.go.jp/soudan/soudan/shitauke.html
まとめ|下請法の遵守は「信頼」の第一歩
令和6年度の実績は、依然として多くの下請法違反が存在していることを示しています。下請事業者の利益保護と取引の公正を実現するためには、法令遵守と適切な契約・交渉が欠かせません。
中小企業の経営者にとって、これらの情報を「他人事」として捉えるのではなく、自社の取引の在り方を見直すきっかけとすることが重要です。支援者の皆さまも、こうした事例を理解し、現場での助言やサポートに活用してください。
正しい知識と行動が、企業の信用と持続的成長を支える大きな武器となります。