中小企業の人材戦略2025|採用・育成・賃上げ・人権対応まで完全ガイド

政策

商工中金が2025年8月に実施した「中小企業の人材戦略に関する調査」では、2,400社を超える中小企業が「実務者層の確保」「経営人材の育成」「給与制度の見直し」など、多面的な課題に直面している実態が明らかになりました。

本記事では、その調査結果と現場企業のリアルなコメントをもとに、中小企業が取り組むべき 人材確保・育成・制度改革・人権対応の最新動向 を徹底解説します。

現場を支える「実務者層」の確保が喫緊の課題

調査では、今後1年・5年のいずれの期間においても「実務者層の採用」を強化・着手したいと回答した企業が最も多くなりました。
これは、製造業・非製造業を問わず、現場で作業・営業を担う層の慢性的な人手不足が背景にあります。

一方、今後5年を見据えると、「経営人材(役員・部長・管理職層)の採用」を重視する企業が増加。次世代の経営層をどう育成・確保するかという中長期的な視点が広がっています。

ある電気機器メーカーは、「経営戦略に基づく採用計画がなく、現場任せの人員調整に終始している」と課題を挙げています。
また、その他製造業の企業からは「専門人材の確保に限界を感じており、従来の採用手法の見直しが必要」との声もありました。

一方で、成功事例も見られます。
輸送用機器業界では、「実務者層の縁故採用や出戻り採用が効果を上げている」とし、
機械関連企業では「外国人労働者の生活支援を通じて定着率を高めた」といった具体的な取り組みも報告されています。


「経営戦略に紐づいた人材戦略」への関心が高まる

人材確保に続いて注目すべきは「人材活用・組織整備」です。
今後1年では「従業員の健康・安全への配慮」や「ハラスメント防止」に取り組みたいとする企業が多かった一方で、今後5年の視点では、「経営戦略に紐づいた人材戦略の策定」を最重要項目に挙げる企業が最多となりました。

これは、単なる採用・配置といった短期施策ではなく、企業の持続的成長を見据えた“戦略的人事”を志向する動きといえます。

実際、調査で「経営戦略に紐づいた人材戦略の策定」を掲げた企業では、約3割が「経営人材の採用」を重視しており、全体より高い比率を示しました。
「現場の人手確保」に加えて「次代を担うリーダー育成」が重要テーマになりつつあります。

コメントの中には、「総務部門は非収益部門と見なされ人員確保が難しい」(鉄・非鉄)といった声もあり、人材戦略そのものを実行できる体制づくりが課題であることがわかります。
一方、「経営方針発表会で社員の個人目標を共有し、会社支援を伝える」(その他製造業)など、
社員との対話を通じて人材戦略を実践する取り組みも見られます。


「給与制度の見直し」に立ちはだかる“金銭的な壁”

制度面では「給与制度の見直し」を挙げる企業が多く、特に「金銭的負担の大きさ」が最大の課題となっています。

約6割の企業が「賃上げの原資確保が難しい」と回答しており、人件費上昇が経営を圧迫する構造が続いていることがわかります。

自由記載コメントでも、
「給与体系がつぎはぎ状態で公平性を欠く」(鉄・非鉄)
「経営層の評価で給与が決まり、基準があいまい」(同)
といった声が目立ちました。

一方、輸送用機器業界では「給与・福利厚生が業界平均を上回り、従業員満足度は高い」との回答もあり、
報酬制度を強みにできる企業も存在します。
また、その他製造業では「外部支援機関と連携して人事制度を見直し中」との取り組みが報告されており、
専門家や公的支援制度を活用する動きも広がりつつあります。


人材育成はOJT中心、時間と人手の確保が鍵に

「OJTによる人材育成」に取り組む企業では、「時間的余裕がない」「担当者を確保できない」との声が多数を占めました。
限られた人員で日常業務をこなしながら教育時間を確保する難しさが浮き彫りです。

ある卸売業の企業では「Eラーニング研修は受講にばらつきがあり効果が限定的」とし、
「人事考課との連動で受講を促す工夫が必要」とコメント。
また、製造業では「タレントマネジメントシステムを導入したが活用が不十分」との課題認識も見られました。

それでも多くの企業が工夫を凝らし、
「若手向け社内セミナーを役員と外部講師が共同企画」(金属製品)
「新任乗務員へのOJT体制を整備」(運輸業)
「資格取得費用の補助」(機械関連業)
などの取り組みを進めています。

人材育成を単なる教育ではなく、「全社員で採用・育成に関与し、入社後フォローを強化」(卸売業)といった組織全体の文化として根付かせることが、定着率とモチベーションの向上につながっているようです。


人権・ハラスメント対応の強化は「採用・定着」目的が中心

調査の中では「人権対応」も注目されています。
人権施策を「強化・着手したい」と回答した理由として、最も多かったのは「従業員の採用・定着」(約77%)で、「法令対応」(約70%)が続きました。

一方、「取引先からの要請」はわずか3%にとどまり、外部要因よりも自社の人材確保を目的とした自主的取組が中心であることが分かります。

具体的なコメントでは、
「女性従業員が多くカスタマーハラスメントへの対応が急務」(小売業)
「無意識のハラスメントに気づかせる研修が必要」(飲食・宿泊)
といった現場の声が上がりました。

実際の取り組みとしては、
「人権方針の策定や従業員研修の実施」(機械関連業)
「健康経営の実践」(情報通信業)
「JASTI監査の認定取得」(製造業)など、
法令対応を超えて“働きやすい環境づくり”を重視する企業が増えています。


中小企業の人材戦略に求められる次の一手

今回の商工中金調査からは、「実務者層の確保」「経営人材の育成」「給与制度の見直し」「人権対応」など、中小企業が直面する人材課題の全体像が明確に浮かび上がりました。

特に注目すべきは、企業の多くが“採用と育成を切り離さず、経営戦略に結び付ける”方向へ舵を切りつつあることです。
これは単なる人事施策ではなく、「人的資本経営」の実践そのものであり、中小企業が持続的に成長するためには避けて通れないテーマとなっています。

その実現には、

  • 経営層と現場が一体となった人材戦略の策定
  • 制度改革に対する外部専門家や支援施策の活用
  • 人権・多様性・健康経営への長期的な投資
    が重要です。

まとめ

中小企業の人材戦略は、もはや“人事部門だけの問題”ではありません。
経営そのものに直結する経営課題として、採用・育成・定着・人権対応を包括的に捉える時代に入っています。

商工中金の調査結果から見えてくるのは、厳しい環境の中でも「人を活かす経営」へと変化を進める企業の姿です。

人材確保の先にあるのは、社員一人ひとりが活躍し、企業が共に成長していく未来であり、その実現に向けて、「人材戦略の再設計」が重要となってきています。

タイトルとURLをコピーしました