中小企業にとって、エネルギー価格の高騰や脱炭素対応は、もはや見過ごせない重要課題となっています。2025年7月に東京商工会議所が公表した「中小企業の省エネ・脱炭素に関する実態調査」では、全国1,800社以上の企業の声が集められ、その実態が浮き彫りになりました。
この記事では、調査結果をもとに、
- エネルギー価格が経営に与えている影響
- 中小企業の脱炭素に対する取り組み状況とその課題
- 政府・商工会議所に求められる支援
という3つの視点から、今後の経営判断に役立つ情報をわかりやすく解説します。
東京商工会議所が公表した「中小企業の省エネ・脱炭素に関する実態調査」https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1206619
エネルギー価格の高騰が経営を直撃 ― 対応に苦慮する中小企業
今回の調査では、実に85.2%の企業が「エネルギー価格が経営に影響している」と回答しました。前年よりわずかに減少したものの、多くの中小企業が依然として強い影響を受けていることがわかります。
とくに、製造業、運輸業、宿泊・飲食業、医療・福祉業では、影響が深刻で事業継続に不安を感じている企業が6割超にのぼります。宿泊・飲食業では2割近くの企業が「事業継続に不安がある」との回答をしています。
価格高騰への対応策
企業が講じている主な対策には以下があります。
- 価格転嫁(34.2%):製品やサービスの値上げ
- 運用改善による省エネ(27.7%)
- 省エネ型設備への更新・新規導入(25.1%)
ただし、価格転嫁の実態を見ると、「全く転嫁できていない」「ほとんど転嫁できていない」との回答が半数近くを占めており、特に医療・福祉業では約5割が全く転嫁できていないという厳しい現状が明らかです。
価格転嫁が困難な背景には、社会的要請によって価格改定が難しい業種構造、そして競争激化による価格維持圧力があると考えられます。
脱炭素に向けた取り組みとその実情
気候変動への対応が経営課題として浮上する中、今回の調査では約7割(68.9%)の企業が何らかの脱炭素の取り組みを行っていることがわかりました。
主な取り組みは次の通りです。
- 省エネ型設備への更新・導入(35.7%)
- 運用改善による省エネ(34.5%)
- エネルギー使用量・温室効果ガス排出量の把握・測定(26.0%)
しかし、「取り組みをしていない」と回答した企業も31.1%にのぼります。中には、脱炭素の必要性は認識していても、「何から始めればよいかわからない」「人手や知識が足りない」といった声もありました。
脱炭素の壁:コストとノウハウ不足
脱炭素のハードルとして最も多かったのは「費用・コストの負担が大きい」(64.5%)という声。次いで「マンパワー・ノウハウ不足」(35.8%)や、「排出量の具体的な算定方法が分からない」(18.4%)などが続きます。
また、「メリットが感じられない」とする企業も一定数存在しており、意識啓発の必要性も浮き彫りとなりました。
取引先からの要請と支援状況

脱炭素に関する取引先からの要請を「受けている」と答えた企業は**21.3%**でした。要請の内容としては、温室効果ガス排出量の把握や削減目標の設定が多く見られます。
しかし、実際に取引先から支援を受けている企業はわずか25.9%。多くの企業が要請を受けながらも、具体的な支援を受けられずに対応に苦しんでいます。
これは、中小企業がサプライチェーン全体の脱炭素化に巻き込まれつつも、支援体制が追いついていない現状を象徴しています。
中小企業が求める脱炭素支援とは?
政府や商工会議所に対して、中小企業が期待する支援の声は以下のような傾向が見られました。
政府・自治体への期待(上位3項目)
- 省エネ設備、再エネ導入等に対する資金面での支援(72.8%)
- 脱炭素製品・技術の開発等への補助(28.8%)
- 排出削減へのインセンティブ(27.1%)
商工会議所への期待(上位3項目)
- セミナーや情報提供(49.6%)
- 国・自治体の支援策の紹介(44.1%)
- 相談窓口の設置(21.4%)
つまり、「お金」と「情報」が中小企業にとって最も必要とされている支援であることが明確になりました。
まとめ:支援があればもっとできる、中小企業の脱炭素
今回の調査から浮かび上がったのは、多くの中小企業がエネルギー価格の高騰に苦しみながらも、脱炭素への取り組みを模索しているという実態です。しかし、コストやノウハウの壁が依然として高く、「やりたくてもできない」という声が少なくありません。
中小企業の力を引き出すには、
- 補助金・助成金など資金的支援の充実
- 分かりやすく実践的な情報提供
- サプライチェーン全体での支援体制の構築
が不可欠です。
中小企業診断士として、現場の声を聞き、適切な制度や専門家とのマッチングをサポートすることが、これまで以上に求められていると感じます。