価格交渉は、中小企業にとって避けて通れない経営課題の一つです。原材料や人件費の高騰、物流コストの上昇など、経営を取り巻く環境は厳しさを増しています。そんな中、「適正価格での取引がしたい」「値上げ交渉をしたいが根拠がない」と悩む経営者の声は少なくありません。
そこで注目したいのが、中小企業庁および中小企業基盤整備機構が提供する無料の収益シミュレーションツール「儲かる経営 キヅク君」です。本ツールは、収益構造の「見える化」によって、自社の利益確保に必要な売上高や価格を検討するための試算を支援します。
この記事では、「キヅク君」の概要から使い方、実務での活用例、導入時の注意点までを、中小企業診断士の立場からわかりやすく解説します。
価格交渉は「感覚」ではなく「数字」で行う時代へ
これまで多くの中小企業では、取引先との関係性や業界慣習に配慮しすぎて、「値上げを言い出せない」まま価格を据え置いてきました。しかし、現状のままでは利益が出ない、むしろ赤字になっている企業も少なくありません。
こうした場面で有効なのが、収益データに基づいた交渉です。「この商品は、これだけコストがかかっている」「適正利益を確保するには、この価格が必要だ」といった根拠を示すことで、取引先にも納得感を持ってもらうことができます。
ただし、こうした情報を手作業で集め、計算するのは現場にとって大きな負担です。そんな課題を解決するのが、「儲かる経営 キヅク君」です。
「儲かる経営 キヅク君」とは何か?
「儲かる経営 キヅク君」は、商品・取引先ごとの収支構造やコストの変化を“見える化”し、目標とする利益を確保するための価格や売上高を試算するための無料の収益シミュレーションツールです。登録は不要で、Webブラウザ上で誰でも利用可能です(PC推奨)。
特徴として、以下のような機能が備わっています:
- 会社全体の収支変化の把握(過去と現状の比較)
- 商品・取引先ごとの利益構造の分析
- 利益目標から逆算した価格や売上高の試算
- 結果のグラフ表示と保存(PDF出力対応)
Excelファイルのダウンロードや専用ソフトのインストールは不要で、サイト上の画面から直接入力・操作が可能です。操作マニュアルや支援情報も充実しており、専門知識がなくても始めやすいのが大きな魅力です。
👉 公式サイト:https://kakakutenka.smrj.go.jp/moukaru/
キヅク君のステップ別活用方法
本ツールは以下の4つのステップで構成されています。各段階で何を行うのか、順に見ていきましょう。
ステップ0:業種を選択
最初に、自社の業種を選びます。製造業・建設業、卸売・小売・サービス業、物流業、個人事業から選択することで、適切な勘定科目が表示されるようになります。これにより、業種ごとの特性に沿った収益分析が可能になります。
ステップ1:会社全体の収支状況を比較
次に、過去と現状の損益計算書などの数値を入力し、収益構造の変化を可視化します。売上高の増加以上にコストが増えていないか、営業利益はどう変化しているかなど、数字に基づいて経営の方向性を確認することができます。
比較結果はグラフや表で表示されるため、増減傾向が一目で把握できます。
ステップ2:商品・取引先ごとの収支を分析
会社全体の数値をもとに、商品や取引先ごとの売上高、販売数量、コストを入力することで、それぞれの利益貢献度を確認できます。
営業利益率が低い商品や赤字案件などを特定し、見直しや交渉対象の選定に活用できます。
ステップ3:目標利益から価格・売上高を試算
最後に、目標とする営業利益を入力することで、その利益を達成するために必要な価格や売上高がシミュレーションされます。「この商品をいくらで販売すれば利益が確保できるか」「コストをどの程度削減すればよいか」など、戦略的な意思決定を支援してくれます。
現場での活用イメージとメリット

実際にキヅク君を使って得られるメリットは大きく分けて3つあります。
1つ目は、「自社の強みと課題が見えるようになる」こと。どの取引先が利益を生んでいるのか、逆にどの商品で損をしているのかが明らかになれば、経営資源を集中すべき領域が明確になります。
2つ目は、「価格交渉の材料が手に入る」こと。根拠となるデータを提示することで、単なる値上げ要求ではなく、合理的な対話が可能になります。相手にとっても納得感があるため、交渉の成功率が上がります。
3つ目は、「将来のシナリオを描ける」こと。利益目標に対して価格をどう設定するか、どのコストを削減すべきかといった経営判断を、定量的に行うことができます。
導入時の注意点と限界
便利なツールですが、いくつかの重要な留意点があります。
入力データの正確性が最も重要
このツールはあくまで試算を支援するものであり、元となる入力データが不正確であれば、結果も信頼できるものになりません。できる限り実績に基づいた数値を使い、慎重に入力することが大切です。
一度で完結せず、継続的な活用が効果的
月次や四半期ごとに見直し、収支構造の変化を定期的にチェックすることで、効果が高まります。とくに価格交渉の直前だけ使うのではなく、日常の経営管理に組み込むことをおすすめします。
本ツールはあくまで「収益シミュレーション」用
マニュアルにも明記されている通り、本ツールは原価や価格の試算を行う支援ツールであり、最終的な経営判断や価格交渉の決定資料として使用するものではありません。
業種ごとの商習慣や顧客ごとの条件を加味する必要があるため、専門家との相談を併用しながら使うことが推奨されています。
👉 専門家相談先はこちら:
https://kakakutenka.smrj.go.jp/moukaru/support-info.html
まとめ:価格交渉の武器として「見える化」を
価格交渉は、「お願い」ではなく「根拠に基づく提案」で行う時代です。自社の利益構造を数字で理解し、それを交渉資料に活かせる企業こそが、持続可能な経営を実現していけます。
「儲かる経営 キヅク君」は、そのための第一歩として、中小企業が気軽に使える収益シミュレーションツールです。登録もインストールも不要で、ブラウザさえあればすぐに利用できます。
まずは、あなたの会社の「利益の見える化」から始めてみませんか?