企業経営において、地震・台風・パンデミックなどの不測の事態は決して他人事ではありません。東京都では、これらのリスクに備え、事業を継続するための対策「BCP(Business Continuity Plan)」の実行を支援するため、「令和7年度 BCP実践促進助成金」を実施しています。
この記事では、BCPの重要性とともに、本助成金の目的や対象経費、申請方法、審査のポイントなどを、専門知識がない方にもわかりやすく解説します。
BCP実践促進助成金https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/setsubijosei/bcp.html
事業目的|なぜBCP実践を支援するのか?
BCPとは「事業継続計画」のことで、自然災害や感染症などによって通常の業務が停止した際にも、事業の中核を維持・早期復旧するための計画を意味します。
東京都が実施する「BCP実践促進助成金」は、こうしたBCPの策定と実行(物資の備蓄や防災設備の導入)を支援し、中小企業のレジリエンス(回復力)を高めることを目的とした制度です。特に、首都直下地震などへの備えは急務となっており、企業の社会的責任や取引先からの信頼にも直結します。
助成事業の内容と概要
「BCP実践促進助成金」は、BCPに基づいた設備や物資の導入費用、ならびに基幹業務システムのクラウド化等に必要な費用の一部を助成します。
対象者
以下の申請要件などを満たすことが必要です(その他の要件は募集要項を確認下さい)。
〇東京都内で事業を1年以上継続している下記の事業者
- 中小企業者
- 中小企業団体(要件あり)
- 個人事業主
- 小規模企業者(従業員数要件あり)
※医療法人や社団法人等、公益・宗教法人などは対象外です。
〇以下いずれかの BCP を提出できる事業者
- 平成 29 年度以降に公益財団法人東京都中小企業振興公社(以下:公社)総合支援課が実施する「BCP 策定支援事業(BCP 策定講座・BCP 策定コンサルティング)」による支援を受け、受講内容を踏まえて作成した BCP
- 中小企業強靱化法に基づく「事業継続力強化計画」の認定を受け、その内容に基づいて作成した BCP
- 平成 28 年度以前の東京都又は公社が実施したBCP策定支援事業等の活用により作成したBCP
助成額と助成率
- 助成限度額:1,500万円(うち、クラウド化分の上限450万円)
- 助成率:
- 中小企業者:1/2以内
- 小規模企業者:2/3以内
- 助成金の下限額:10万円
スケジュールと申請時期
本助成金は年3回の募集があり、それぞれ申請期間と助成対象期間が異なります。
回数 | 申請期間 | 助成対象期間 | 交付決定 |
---|---|---|---|
第1回 | 2025年5月14日〜20日 | 2025年8月1日〜11月30日 | 7月下旬 |
第2回 | 2025年9月10日〜17日 | 2025年12月1日〜2026年3月31日 | 11月下旬 |
第3回 | 2026年1月7日〜14日 | 2026年4月1日〜7月31日 | 3月下旬 |
助成対象事業の詳細

対象となる事業は、BCPに基づき事業継続のために必要とされる以下の設備や物品等の導入です。
- 緊急用発電機やポータブル電源
- 無停電電源装置(UPS)
- NAS(ネットワークストレージ)やクラウド型バックアップ
- 飛散防止フィルム、転倒防止装置、免震ラック
- 従業員用の非常食、簡易トイレ、毛布等の備蓄
- 感染症対策物品(消毒液、体温計、マスク等)
- 災害用土のう、止水板など(ハザードマップ要提出)
- ERP・CRMなど基幹システムのクラウド化
- 耐震診断(条件あり)
※設置は原則都内の自社事業所。埼玉・千葉などの近隣県でも一部対象になります。
助成対象経費の詳細
主な助成対象経費
- 物品・設備購入費
助成対象事業で定められた防災・減災用品などの購入費用。 - 工事費等
設置に必要な材料費、労務費、設備運搬費など。工事費は設備費の25%以内が上限。 - クラウドサービス利用料
サブスクリプション型のクラウドサービスやSaaSの初期費用・利用料(最大4ヶ月分)
経費上限の考え方
非常用備蓄品については「従業員1人あたり3万円」を上限に算定されます(役員含む)。たとえば従業員10人の場合、備蓄品の助成対象経費は最大30万円です。
助成対象外となる経費
- 自社製品や自社社員による工事費
- パソコン、スマートフォン、テレビ等の汎用品
- 保険料、通信費、教育・サポート費用
- 現金・手形・電子マネー等で支払ったもの
- 消耗品や福利厚生を目的とした設備
- 通常業務に必要な設備(平時の営業用)
申請方法と必要な準備
申請はすべて「Jグランツ(電子申請システム)」を通じて行う必要があります。
申請手順の流れ
- GビズIDプライムアカウントの取得(約2週間かかります)
- 公社HPからの事前エントリー
- 申請書の作成と必要書類の準備
- Jグランツへのログイン・申請書アップロード
提出が必要な主な書類
- 助成金交付申請書(様式指定あり)
- BCP文書(必要項目の明示)
- 納税証明書、決算書、会社案内
- 見積書(複数社から取得)
- 設備の仕様書、設置図面
- クラウドサービスの場合は構成図、理由書
申請書類に不備がある場合、差し戻しされる可能性があるため、専門家による事前チェックをおすすめします。
審査方法とポイント
審査は以下の観点から、外部有識者による書面審査で行われます。
- 申請資格の妥当性
- 経営状態・財務健全性
- BCPの具体性・妥当性
- 設備導入の必要性と合理性
BCPには、想定リスク・復旧計画・安否確認方法・緊急時の役割分担・備蓄品の内容などが具体的に記載されている必要があります。
また、提出物の価格が市場価格より高すぎる場合、不採択となる可能性もありますので注意が必要です。
おわりに|備えが企業の未来を守る
「BCP実践促進助成金」は、単なる防災グッズの購入支援ではなく、企業としての責任ある事業継続体制の構築を促す制度です。
この助成金を活用することで、自社の備えを強化できるだけでなく、取引先や顧客、従業員からの信頼獲得にもつながります。特に、BCPの策定が未着手である場合でも、東京都中小企業振興公社の支援プログラムを活用することで申請が可能です。
申請は電子化されており、一定の準備が必要ではありますが、専門家の力を借りながら取り組むことで、スムーズな申請が可能となるでしょう。
申請を検討される場合は必ず募集要項のご確認下さい。
募集要項https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/setsubijosei/rmepal0000023lo1-att/r7bosyuyoukoubcp.pdf