人件費や原材料費の高騰が続く中、価格転嫁が思うように進まない——これは多くの中小企業が直面している課題です。そのような中、東京都が2025年度(令和7年度)に打ち出したのが「スタートアップ等を活用した価格転嫁・賃上げ支援事業」です。本記事では、その目的や支援内容、申請条件、注意点を詳しく解説し、中小企業がこの制度をどのように活用できるかを考察します。
スタートアップ等を活用した価格転嫁・賃上げ支援事業 https://kakaku-chinage-tokyo.jp/
この事業の目的とは?「適正な価格転嫁と持続可能な賃上げ」の実現
東京都内の中小企業では、利益が思うように上がらない中でも、従業員確保のためにやむなく賃上げを行う企業が少なくありません。その一方で、増加した人件費や原材料費を販売価格に反映する「価格転嫁」が十分に進んでいない現状があります。
この支援事業は、スタートアップ企業が提供する革新的なデジタルツール(原価管理や人件費シミュレーションなど)を活用し、中小企業が「自社のコストを正確に把握」できる体制を整えたうえで、価格交渉を有利に進められるよう支援します。さらに、適切な価格設定によって収益力を高め、持続可能な賃上げを実現することも目的とされています。
募集内容と応募資格:誰が申し込めるのか?
本事業に応募できるのは、以下の条件をすべて満たす都内の中小企業です。
- 東京都内に本店または支店がある中小企業(中小企業基本法第2条第1項に該当)
- 「みなし大企業」に該当しない企業(例:大企業の子会社や支配下にある企業は除外)
また、以下のような業態・条件に該当する企業は支援の対象外となるため注意が必要です。
- 法令や公序良俗に反する、あるいはそのおそれがある企業
- 暴力団関係者や、風俗営業・ギャンブル業など社会的に適さないと判断される業態
- 応募時に虚偽の情報を申告した企業
- 過去に助成金や補助事業で不正があった企業 など
さらに、事務局との連絡が取れない、参加意欲が見られないなどの場合も支援の中止対象になります。
募集開始日:令和7年7月9日(水)~ ※定員に達し次第終了
募集企業数:最大100社
支援内容の具体的な中身とは?

本事業の支援は、以下のように「段階的かつ実践的」に提供されます。
コンサルティング(最大5回)
コンサルタントが企業ごとに担当し、以下のサポートを実施します。
- 価格転嫁と賃上げに関する課題のヒアリング
- 原価や人件費の現状把握
- 導入するデジタルツールに必要な機能の要件定義
- ツール導入後の活用支援(数値の解析・評価・改善)
デジタルツールのトライアル導入
以下のようなスタートアップ企業のツールを、最大100万円(税込)分まで無償でトライアル利用できます。
分類 | ツール名 | 主な機能 |
---|---|---|
原価管理 | DrumRole | 材料・工数・外注費の可視化と原価計算 |
原価管理 | SmartF | 工程別の原価把握と生産実績の可視化 |
人件費管理 | jinjer | 勤怠・給与データの統合と分析 |
人件費管理 | One人事 | 評価制度と人件費の可視化 |
業務効率化 | カミナシ | 現場帳票のデジタル化と業務改善 |
※導入可能なツールは指定された一覧に限られています
導入後は、支援期間内(令和8年2月28日まで)は無償で利用可能ですが、上限額超過分や支援期間終了後の利用は、企業側の費用負担となります。
応募の流れと必要書類
申請は、公式ウェブサイトからオンラインで行います:
▶︎公式サイト:https://kakaku-chinage-tokyo.jp
申請には以下の書類が必要です:
- 履歴事項全部証明書(発行から6ヶ月以内)
- 個人事業主の場合は開業届の写し
申請後、1週間程度で審査が行われ、メールで結果が通知されます。選定後、順次コンサルティングが開始されます。
留意事項:活用する上での注意点
無償=完全無料ではない?
本事業は多くの支援が無償ですが、以下のようなケースでは費用が発生することがあります。
- デジタルツール利用額が100万円(税込)を超えた場合の超過分
- 支援期間後もツールを継続利用したい場合
- 最低利用期間を満たさずに途中解約した場合の違約金相当額
単なるツール導入目的ではNG
この事業は「経営改善と価格転嫁」を支援することが目的です。ツール導入そのものが目的とみなされると、支援対象から外れる可能性があります。
支援の実施場所は首都圏に限定
コンサルティングやツールの導入支援の実施場所は「東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・群馬県・栃木県・茨城県・山梨県」に限定されています。なお、上記の通り、本事業に応募できるのは東京都内に登記簿上の本店または支店がある中小企業者となります。
専門家の視点からの考察:本事業をどう活かすか?
この事業の最大の特徴は、「ツールの無償提供+コンサル付き」という点です。単なる助成金とは異なり、ツールを使いこなす支援体制が整っているため、コスト管理の精度が一段階上がる可能性があります。
特に中小企業にとって、価格交渉に説得力を持たせる「原価の見える化」は武器になります。さらに、適切な人件費管理によって「根拠ある賃上げ」も可能となり、優秀な人材の確保にもつながります。
一方で、ツールの選定・活用には「自社に合ったものを選ぶ目」が必要です。単なるIT導入ではなく、「経営戦略として使いこなす姿勢」が重要となります。
まとめ:今すぐ申請を検討すべき理由
東京都が本気で中小企業の価格交渉力と賃上げ力を支援する今回の事業は、「費用対効果が非常に高い支援策」です。
- 無償で最大100万円分のツール導入
- 専門家による5回のコンサルティング支援
- 都内中小企業なら申請可能(条件あり)
定員はわずか100社限定。関心がある場合は、まずは公式サイトをチェックし、早めに応募を検討してください。