東京都内で製造業を営む中小企業の皆様にとって、経営統合や事業承継を通じた成長戦略は重要な選択肢となっています。2025年度(令和7年度)に実施される「経営統合等による産業力強化支援事業」は、そうした大きな転換を伴う企業に対して、建設費や設備費などの経費の一部を助成することで、東京都の産業力を底上げすることを目的としています。
本記事では、中小企業の経営者や支援機関の皆様向けに、本事業の概要から申請方法、スケジュール、審査のポイントまでを網羅的にわかりやすく解説します。
経営統合等による産業力強化支援事業https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/07/2025071601
事業目的 ~なぜ「経営統合」への支援が必要なのか?
東京都内の製造業は、半導体、自動車、印刷などの多様な業種が集積し、高度なサプライチェーンを形成しています。しかし近年、その中核を担うTier2企業の減少が顕著で、全体の供給ネットワークの持続性が揺らいでいる状況にあります。企業の廃業や後継者難による事業停止が続けば、地域全体の産業空洞化を引き起こすおそれも否めません。
そこで東京都では、経営統合や事業譲渡、合併などを契機として、都内において工場の新設や増改築を行う企業に対して助成金を提供することで、大規模な経営の再編を強力に支援しています。
この支援は単なる資金援助ではなく、「中小企業が主体的に産業構造を変革し、持続的な発展へと進むための戦略的後押し」であると言えるでしょう。
事業内容の全体像 ~対象、枠組み、助成内容を理解しよう
本助成事業は、経営統合等を実施する都内中小企業者が、新たに取り組む「工場の建設」や「設備導入」などに対して支援を行うものです。中小企業が自らの経営資源を再編成し、競争力を高めるための挑戦に向けて、その経済的負担を軽減することを目的としています。
対象となる経営統合の範囲
「経営統合等」として、以下の形態が明確に定義されています。
- 株式取得(譲渡、増資、株式交換、株式移転)
- 事業譲渡
- 吸収合併・新設合併
- 吸収分割・新設分割
- サプライチェーンへの影響が大きい企業の大規模な変革(単体枠)
助成対象者の区分と枠組み
助成は、以下の2つの「枠組み」に分かれています。
- 連携枠
複数企業による経営統合を前提とした枠組みで、「連携枠Ⅰ」「連携枠Ⅱ」に分類されます。
- 上限:最大4億円
- 助成率:2/3以内
- 助成下限額:1,000万円 - 単体枠
特にサプライチェーンへの影響が大きい中小企業が単独で行う大規模変革を対象とします。
- 上限:最大3億円
- 助成率:1/2以内
- 助成下限額:5,000万円
対象事業と助成経費
工場建設やそれに伴う設備導入が対象となりますが、その中でも以下が主な助成対象経費です。
- 建設費(都内での新設・増改築)
- 設備・システム導入費(上限:5,000万円)
- 調査費(連携拡充のための市場調査など)
- 広告宣伝費(パンフレット作成やHP改修など)
設備導入や建設工事にあたっては、適正な見積もりと、法令遵守、所有権の帰属などが条件となります。対象外経費も明確に定義されていますので、申請時の注意が必要です。
スケジュール ~いつ、何をすべきか?
本事業には事前エントリーと本申請の2段階のスケジュールが設定されています。特にエントリーをしないと申請自体ができないため、時期を逃さないようにしましょう。
【令和7年度スケジュール】
- 事前エントリー期間:令和7年7月16日(水)14:00 ~ 8月31日(日)
- 申請期間(jGrants):令和7年9月1日(月)14:00 ~ 10月31日(金)17:00
- 書類審査:令和7年12月(予定)
- 現地調査・面接審査:令和8年1月
- 採択・交付決定:令和8年2月
- 助成対象期間:交付決定翌月1日から最大3年間
助成対象事業の詳細 ~どんなプロジェクトが支援されるのか?
助成対象事業として求められるのは、以下のような条件を満たすプロジェクトです。
- 東京都内にて工場を新設・増改築すること
- 導入する設備は、対象工場で実際に稼働するもの
- 経営統合等を伴い、サプライチェーンの維持・強化につながるものであること
- 助成事業完了後も引き続き、10年以上都内で営業し続ける事業計画であること
経営統合の種類に応じて、助成申請者が誰になるかも明確に規定されています。例えば、新設合併であれば、設立前の企業も一定条件下で申請可能です。
助成対象経費の詳細 ~どこまで経費が認められるのか?

本事業では、建設費や設備導入費など、実際の投資に直結する経費が支援対象となります。特に工場建設については、設計図や複数社からの相見積もり、建設業許可など厳格な要件が設けられています。
以下は主な経費と留意点です。
建設費
- 外装・内装、電気・空調・給排水工事など
- 助成対象は相見積もりで最安業者の金額
- 建設業法遵守が必須
設備・システム導入費(上限5,000万円)
- 生産設備、工場稼働システム、人事・給与・研修システムなど
- リース、レンタルは対象外。所有権が必要
調査費
- 連携先の調査、新市場の調査など、直接的に成果につながるもの
広告宣伝費
- パンフレット、HP、ノベルティ等
- 原則、助成期間内に配布・使用が完了している必要あり
申請方法 ~実際の流れと注意点
申請には、電子申請システム「jGrants」の利用が必須です。そのため、事前に「GビズIDプライムアカウント」を取得しておく必要があります(発行までに1週間程度かかります)。
申請ステップ
- 事前エントリー
- 申請書の取得と作成
- jGrantsを通じた申請
- 必要書類の提出(登記簿、納税証明書、契約書、見積書など)
原則として申請後の書類修正や追加提出は認められませんので、慎重な準備が重要です。支援機関等のサポートを受けることをおすすめします。
審査方法 ~どのように評価されるのか?
審査は、以下の3段階で行われます。
- 書類審査(資格・経理・価格・事業計画の妥当性)
- 現地調査・面接審査(建築士の立会い、計画の実現性など)
- 総合審査会(波及効果・先進性・持続可能性など)
とくに「波及性」と「発展性」に重点が置かれており、自社だけでなく地域経済や業界全体への影響を訴求できる内容であることが、採択のカギとなります。
また、ハンズオンコーディネーターによる支援体制が整っている点も注目です。単なる資金援助にとどまらず、継続的な経営支援が行われます。
まとめ:今こそ経営統合と設備投資のチャンス!
令和7年度「経営統合等による産業力強化支援事業」は、東京都内の中小製造業者が、大規模な経営変革を実現する絶好の機会です。補助金を活用することで、財務的な負担を軽減しながら、工場の建設や最先端設備の導入が可能になります。
事前エントリーやGビズIDの取得など、準備には時間がかかるため、関心のある企業は早めに動き出すことが重要です。
事業計画の戦略性と波及効果をしっかり描くことで、採択の可能性は大きく高まります。本助成金制度を活用し、持続可能で競争力ある経営体制の構築を目指しましょう。
申請を検討される場合は、募集要項をご確認の上、ご不明な点は事務局等へご確認下さい。
募集要項https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/keiei_togo/t2misi00000094tr-att/boshuyoukou.pdf