2025年も自然災害や社会的リスクは絶え間なく発生しており、中小企業にとっての防災とリスク対策は喫緊の経営課題です。東京商工会議所が毎年実施している「会員企業の災害・リスク対策に関するアンケート」の2025年版が公表されました。本記事では、その最新調査結果を紐解きながら、中小企業が取り組むべき防災・BCP(事業継続計画)対策を分かりやすく解説します。さらに実務に役立つ「超入門版BCPシート」も紹介し、経営者や支援者の皆さまにとって役立つ実践的な情報をお届けします。
【調査概要】中小企業の防災・リスク対策の実態を把握する
今回の調査は、東京都と東京商工会議所が2014年に締結した「東京の防災力向上のための協定」に基づいて実施されたものです。対象は会員企業18,252社で、2025年の回答件数は1,352件(回答率7.4%)でした。そのうち約7割が中小企業であり、まさに中小企業の防災意識とリスク対策の現状を映し出すデータとなっています。
【BCP策定状況】中小企業は3割未満、大企業との差が鮮明に
BCP(事業継続計画)策定率の推移
2025年調査によれば、BCPを策定済みと回答した企業は39.5%。2017年度以降、策定率は着実に上昇しており、防災に対する企業意識は確実に変化しています。しかし、依然として約3割の企業が「BCP・防災計画ともに未策定」という状況です。
特に中小企業では策定率が3割に満たず、大企業との差が広がっています。中小企業におけるBCP未策定問題は深刻であり、経営基盤の弱さが災害リスクに直結していると言えます。
中小企業がBCPを策定できない理由
- 人員に余裕がない(58.0%)
- 時間に余裕がない(52.8%)
- 具体的な対策方法が分からない(44.2%)
- 費用に余裕がない(25.3%)
- 具体的なリスクが分からない(16.9%)
リソース不足が最大の壁となっており、特に「人手不足」と「ノウハウ不足」が中小企業のBCP策定を妨げています。
【災害リスク認識】中小企業が最も備えるべきは「地震」と「水害」
BCP策定済企業が想定する主要リスク
- 地震(93%)
- 水害(61.2%)
- 感染症(58.7%)
特に「地震」は全ての企業で最重要リスクとされており、首都直下地震や南海トラフ地震に対するBCP対策は避けて通れません。
猛暑・熱中症リスクへの対応
2025年6月からは労働安全衛生規則の改正により、熱中症対策が事業者に義務化されました。調査では、
- クールビズ導入(約7割)
- 水分・塩分補給品の配布(約5割)
- 冷房設備の整備(約5割)
といった具体的な取り組みが確認されています。気候変動に伴う猛暑リスクは、中小企業の労務管理と防災対策に直結しています。
【備蓄と帰宅困難者対策】中小企業の弱点が明らかに
備蓄の現状
- 従業員向けに3日分以上の備蓄をしている企業:約5割
- 外部の帰宅困難者向けに備蓄している企業:2割未満
また、備蓄の課題としては、
- 保管スペースの確保(74.1%)
- 在庫・賞味期限管理(61.1%)
が大きな負担となっています。
帰宅困難者対策
調査によれば、外部の帰宅困難者を受け入れる可能性があると回答した企業は21.5%にとどまりました。特に中小企業では18.8%と低く、首都直下地震を想定した帰宅困難者対策は十分に整っていないのが現状です。
【行政への要望】中小企業が求める防災・インフラ施策

企業が行政に望む防災・リスク対策のトップは、
- 防災・交通インフラの強化・老朽化対策(55.9%)
続いて、
- 防災備蓄品購入補助
- 帰宅困難者対策
- BCP策定支援
といった要望が挙げられています。
また、企業からは「サイバー攻撃や複合災害を想定した訓練の必要性」や「通信インフラの冗長化」への期待も寄せられ、防災を超えた広範なリスクマネジメントが求められていることが分かります。
【実践ツール紹介】中小企業に最適な「超入門版BCPシート」
調査では「何から始めればよいか分からない」という声が多数寄せられました。こうした中小企業のために役立つのが、東京商工会議所が提供する 「超入門版BCPシート(首都直下地震編)」 です。
このシートは以下の3つの観点を整理できるように作られています。
- 発災時に「誰が」「何をするのか」
- 自社の重点事業と必要資源は何か
- 事前準備は十分か
BCPに必要な最低限の検討事項を簡単に整理でき、さらに編集可能で自社仕様にカスタマイズできます。つまり、BCP未策定の中小企業にとって最初の一歩に最適なツールです。
東京商工会議所 超入門版BCPシート(首都直下地震編)https://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=1206988
【まとめ】中小企業が今すぐ始めるべき防災・リスク対策
2025年調査から見えてきたことは、
- BCP策定率は上昇中だが、中小企業は依然3割未満
- 人員不足・時間不足・ノウハウ不足が最大の課題
- 地震・水害・感染症・猛暑といった複合リスクが現実化
- 備蓄や帰宅困難者対策はまだ不十分
- 行政にはインフラ強化とBCP支援が求められている
これらを踏まえ、中小企業が取るべき行動として以下が考えられます。
- 超入門版BCPシートを活用し、まず小さく始める
- 備蓄や帰宅困難者対策を最低限整える
- 自治体や商工会議所の支援施策を積極的に活用する
防災とリスク対策は、単なるリスクヘッジではなく、企業の信頼と存続を守る経営戦略そのものです。本記事をきっかけに、ぜひ自社に合った一歩を踏み出していただければ幸いです。