中小企業の成長を後押しするための新しい支援施策として注目されているのが、「第2回 中小企業新事業進出促進補助金」です。本記事では、中小企業診断士としての視点から、この補助金の目的や対象事業、補助金額、補助対象経費、申請方法、審査のポイントまでを分かりやすく解説します。
特に本補助金は、既存事業とは異なる「新しい挑戦」を支援することを目的としており、単なる設備投資支援ではなく、将来の成長に直結する取り組みが求められます。
事業目的
本補助金の最大の目的は、中小企業等が新たな市場や高付加価値事業に進出することを後押しすることにあります。
中小企業が既存事業だけに依存していると、市場の変化や競争環境の厳しさに直面したときに成長の限界が訪れます。そのため、これまでとは異なる新しい事業への挑戦を積極的に支援し、企業規模の拡大、付加価値の向上、生産性の改善を実現し、最終的には従業員の賃上げにつなげることが狙いとされています。
補助金の交付を通じて、企業が「新しい一歩」を踏み出し、経営基盤を強化できるように設計されているのです。
補助対象者
補助対象となるのは、日本国内に本社および補助事業の実施場所を有する中小企業等です。具体的には以下の法人や事業者が対象になります:
- 中小企業基本法に定める中小企業者(業種ごとに資本金・従業員数の基準あり)
- 一部の法人(企業組合、一般社団法人・一般財団法人のうち営利型法人を含む、農事組合法人、労働者協同組合など)
- 特定事業者の一部(生活衛生同業組合や酒造組合など一定の条件を満たす団体)
- 中小企業等と共同で申請する場合のリース会社
ただし以下に該当する事業者は補助対象外です。
- 創業1年未満の事業者
- 従業員数が0名の事業者
- 大企業の実質的な子会社とみなされる「みなし大企業」
- 過去に不正受給や補助金返還命令を受けている事業者
このように、支援対象は明確に「中小企業等」に限定されています。
補助金額・補助率・補助事業期間
補助金額は従業員数に応じて異なり、さらに「賃上げ特例」を適用することで上限額が引き上げられます。
以下に従業員規模ごとの補助金額をまとめます。
| 従業員数 | 通常の補助上限額 | 賃上げ特例適用時 |
|---|---|---|
| 20人以下 | 750万円~2,500万円 | 最大3,000万円 |
| 21~50人 | 750万円~4,000万円 | 最大5,000万円 |
| 51~100人 | 750万円~5,500万円 | 最大7,000万円 |
| 101人以上 | 750万円~7,000万円 | 最大9,000万円 |
補助率は一律で「1/2」とされています。つまり、対象経費の半額を国が補助するイメージです。
補助事業の実施期間は「交付決定日から14か月以内(採択発表日から最大16か月以内)」とされており、比較的長めに設定されています。これは、新規事業立ち上げに時間を要することを考慮しての措置と言えます。
補助対象経費の詳細
補助対象経費は、新しい事業の立ち上げに必要となる幅広い経費がカバーされています。主なものは以下のとおりです。
- 機械装置・システム構築費:新事業に必要な設備やシステム導入
- 建物費:工場や店舗の新設・改修
- 運搬費:機械や設備の搬入・移設費用
- 技術導入費:外部からの技術指導やノウハウ導入にかかる費用
- 知的財産権等関連経費:特許や商標の取得費用
- 外注費:製造や設計を外部に委託する場合の費用
- 専門家経費:コンサルタントや専門家への依頼費用
- クラウドサービス利用費:業務効率化のためのクラウドツール利用料
- 広告宣伝・販売促進費:新事業の認知度向上や販路開拓にかかる費用
単なる設備投資にとどまらず、事業の立ち上げ全体を包括的に支援できる内容となっています。
補助対象要件の詳細

本補助金では、単なる投資ではなく「新規性」と「成長性」が求められます。主な要件は以下の通りです。
- 新事業進出要件
- 製品やサービスに「新規性」があること
- 新たな市場を対象とすること
- 新事業による売上が既存売上の一定割合以上を占める見込みがあること
- 付加価値額要件
- 補助事業終了後3~5年で付加価値額の年平均成長率4%以上を達成する計画であること
- 賃上げ要件
- 従業員の給与総額や一人当たり給与総額が一定以上伸びる計画であること
- 未達成の場合は補助金の返還義務あり
- 事業場内最低賃金要件
- 地域別最低賃金より30円以上高い水準を維持すること
- ワークライフバランス要件
- 「一般事業主行動計画」を策定・公表していること
- 金融機関要件
- 金融機関から融資を受ける場合、事業計画の確認書を提出すること
- 賃上げ特例の追加要件
- 給与支給総額の成長率を6%以上
- 最低賃金を地域別最低賃金+50円以上に設定
これらの要件を満たすことで、初めて補助対象となります。
補助事業のスケジュール
補助金の流れは以下のようになります:
- 公募開始
- 申請受付:令和7年11月10日(月)(電子申請のみ)から令和7年12月19日(金)まで
- 採択通知(補助金交付候補者の決定)
- 交付申請・交付決定:令和8年3下旬頃
- 補助事業実施(14か月以内)
- 実績報告・確定検査
- 補助金の請求・支払
- 事業化状況報告(5年間)
特に「GビズIDプライムアカウント」と「一般事業主行動計画」の準備に時間がかかるため、早めの対応が不可欠です。
申請方法
申請は専用の電子申請システムを通じて行います。
必要な添付書類(事業計画書、決算書、認定支援機関による確認書など)をそろえ、締切日までに提出することが求められます。
審査方法とポイント
審査は書面審査と口頭審査(該当者のみ、オンライン)が行われ、事業計画の実現可能性や波及効果が評価されます。
特に重視されるポイントは以下です。
- 新規性・市場性(既存市場の延長ではなく、新しい市場への挑戦か)
- 成長性(付加価値や売上の増加が見込まれるか)
- 賃上げの実現性(従業員の待遇改善につながるか)
- 事業計画の具体性(根拠のある数値計画か)
- 経営者の覚悟と実行力
単なる「補助金ありき」の事業計画ではなく、企業全体の成長戦略と一体となった取り組みが求められます。
まとめ
「第2回 中小企業新事業進出促進補助金」は、単なる資金支援ではなく、中小企業が新たな成長へ挑戦するための後押しとして設計されています。
- 新しい市場・事業への挑戦を支援
- 最大9,000万円の補助金が活用可能(賃上げ特例適用時)
- 設備投資から販促費用まで幅広く対象経費をカバー
- 賃上げや付加価値増加といった成長要件が必須
経営者にとっては、自社の未来を見据えた「新規事業戦略」を具体化する絶好の機会です。補助金を単なる資金調達手段と捉えるのではなく、自社の成長と従業員の待遇改善を両立させるツールとして活用することが重要です。
申請を検討される場合は必ず募集要項をご確認の上、ご不明な点は事務局等にご確認下さい。
募集要項:https://shinjigyou-shinshutsu.smrj.go.jp/docs/shinjigyou_koubo_2.pdf


