人手不足が深刻化する中、中小企業にとって「人材育成」と「人材定着」は経営の最重要課題の一つです。東京商工会議所が2026年2月26日に公表した「人材育成担当者の新入社員・若手社員・中堅社員に対する意識調査 集計結果」は、現場のリアルな悩みと取り組み状況を明らかにしています。本記事では、同調査結果の内容をもとに、中小企業経営者および支援者の皆さまに向けて、人材育成・管理職育成の方向性を分かりやすく解説します。
調査概要から見る中小企業の実態
本調査は、2026年1月7日から1月28日にかけて実施され、2025年に東京商工会議所 人材・能力開発部 研修センターの研修講座を利用した企業担当者3,285名を対象に行われました。有効回答は322名、回答率は9.8%です。回答者は主に各社の人材育成、研修・教育訓練の担当者となっています。
従業員規模を見ると、「0~29人」が31.7%、「30~49人」が15.8%、「50~99人」が17.1%、「100~299人」が24.8%と、比較的小規模から中規模企業の割合が高くなっています。業種は製造業が25.5%と最も多く、建設業13.4%、卸売業17.7%、情報通信業・情報サービス業12.4%など、多様な業種が含まれています。
つまり、本調査はまさに中小企業の人材育成の実態を反映したデータであり、現場の経営課題を考える上で極めて示唆に富んだ内容となっています。
新入社員・若手社員の育成に関する最大の課題とは
新入社員・若手社員の指導・育成に関する課題として最も多く挙げられたのは、「指導・育成しても会社をやめてしまう」(49.4%)、「指導・育成しても活躍しない」(41.0%)という回答でした。
これは、多くの企業が時間とコストをかけて育成しても、定着や戦力化につながらないというジレンマを抱えていることを示しています。さらに、「効果的な方法が分からない」(21.7%)、「メンターやOJTの指導役が不足している」(21.1%)、「資金不足」「時間不足」といった声も見られ、育成体制そのものに課題を抱えている企業も少なくありません。
中小企業においては、育成専任者を置く余裕がない場合も多く、現場任せのOJTに依存しがちです。しかし、調査結果からは、体系的な育成計画や指導方法の整備が十分でないことが、若手の早期離職や活躍不足につながっている可能性がうかがえます。
人材定着のための取り組みとその効果
人材定着のために実施した取り組みとして最も多かったのは「賃上げの実施」(70.8%)でした。続いて「福利厚生の拡充」(52.8%)、「ワークライフバランスの支援」(43.2%)が挙げられています。待遇面の改善から着手する企業が多いことが明確です。
さらに、実施した取り組みの中で効果が高かったものとしても「賃上げの実施」が56.6%でトップとなりました。給与水準の改善は、やはり即効性のある施策といえるでしょう。
一方で、「研修・能力開発制度の拡充・改善」は35.1%が実施しているものの、効果が高かったとする割合は11.9%にとどまっています。これは、単に制度を整備するだけではなく、内容や運用の質が問われていることを意味します。
中小企業経営においては、賃上げだけで差別化を図るのは難しいケースも多いでしょう。だからこそ、キャリア形成支援や成長実感の提供といった非金銭的報酬をどう設計するかが重要になります。
社会人基礎力に見る企業の期待
社会人1年目の新入社員に特に大事にしてほしい能力として、「主体性」(76.4%)、「実行力」(36.6%)、「規律性」(29.8%)が上位に挙げられました。企業は、指示待ちではなく、自ら動き、約束やルールを守る基本姿勢を強く求めています。
また、新入社員を指導する上司に求められることとしては、「仕事の指導を丁寧に行うこと」(47.5%)、「人間関係・チームワークを重視すること」(36.3%)、「部下の意見を真摯に聞くこと」(33.9%)が多く挙げられました。
若手に主体性を求める一方で、上司側には丁寧な指導と対話姿勢が求められている点は重要です。管理職育成やOJT指導力向上が、若手育成の成否を左右することがデータからも明らかです。
中堅社員の管理職育成に関する課題

中堅社員の管理職育成に関する課題では、「上長の育成力・指導意欲が不足している」(40.4%)、「業務繁忙により時間が不足している」(34.2%)、「管理職候補が育っていない・対象者がいない」(33.9%)が上位となりました。
つまり、管理職を育てるための体制そのものが整っていないという構造的課題が浮き彫りになっています。さらに、「管理職になることを希望する中堅社員が少ない」という声も一定数あり、次世代リーダー不足は深刻です。
一方で、中堅社員が管理職になるにあたり身につけてほしいスキルとしては、「後輩・チームメンバーの指導・育成力」(52.2%)、「業務管理・進捗管理能力」(52.2%)、「リーダーシップ・統率力」(37.9%)が挙げられています。プレイヤーからマネジャーへの転換が求められていることが明確です。
階層別講座受講者の管理職意識
2025年5月~12月に実施された階層別講座受講者への調査では、新入社員のうち「管理職を目指したい」は44.3%、「目指したくない」は55.7%でした。若手社員では「目指したい」45.7%、「目指したくない」54.3%と、半数以上が管理職を希望していません。
目指したくない理由としては、「自分には適性がなさそうだから」「プライベートを大切にしたいから」「仕事の責任が重く大変そうだから」などが挙げられています。
一方で中堅社員では「目指したい」が52.3%と逆転しています。理由は「仕事を通じて自分自身を成長させたいから」が最多であり、成長意欲が大きな動機となっています。
この結果からは、若手段階では管理職にネガティブなイメージが先行しがちである一方、経験を積む中で意識が変化する可能性が示唆されます。早期からのキャリア教育やロールモデル提示が重要です。
中小企業が取るべき人材育成戦略
本調査結果を総合すると、中小企業における人材育成のキーワードは「体系化」「上司力強化」「キャリア可視化」の3点に集約されます。
まず、育成計画の明確化と研修体系の整備が不可欠です。新入社員研修、若手社員研修、中堅社員研修といった階層別研修を通じて、段階的なスキル向上を図ることが重要です。
東京商工会議所では、「新入社員のための社会人基礎講座」「若手社員パワーアップ講座」「中堅社員パワーアップ講座」など、階層別の研修講座を多数提供しています。詳細は以下の研修ガイドブックをご参照ください。
これらの外部研修を活用することで、自社内だけでは補いきれない専門的知識や他社との交流機会を得ることができます。特に中小企業にとっては、外部資源の活用が人材育成の効率化につながります。
まとめ:人材育成はコストではなく未来への投資
本調査から明らかになったのは、多くの企業が人材育成や人材定着に真剣に取り組みながらも、効果的な方法を模索しているという現実です。賃上げは一定の効果を発揮しますが、それだけでは持続的な成長にはつながりません。
新入社員には主体性と実行力を求め、上司には丁寧な指導と対話力を求める。そして中堅社員にはマネジメントスキルを段階的に身につけさせる。この一連の流れを戦略的に設計することが、中小企業の競争力を左右します。
人材育成は短期的にはコストに見えるかもしれません。しかし、長期的には企業価値を高め、持続的成長を実現するための最重要投資です。ぜひ本調査結果を自社の人材戦略の見直しに活用し、外部研修や公的支援策も積極的に取り入れながら、強い組織づくりを進めていただければと思います。
東京商工会議所 「人材育成担当者の新入社員・若手社員・中堅社員に対する意識調査 集計結果」https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1208726

