観光業界でDXや経営改革に取り組む東京都内の中小企業にとって、今年注目すべき補助金制度が始まりました。それが「観光関連事業者のDX・経営力強化支援事業補助金」です。
本記事では、中小企業診断士の視点から、専門的な内容をわかりやすく解説します。制度の概要から採択されるためのポイント、過去の採択事例まで網羅していますので、ぜひ最後までご覧ください。
1. 補助金の概要
この補助金は、東京都内の観光関連中小企業がDXや経営基盤の強化を進めるための取り組みに対し、最大3,000万円を補助する制度です。事業の実行には、専門家(経営アドバイザー・DXナビゲーター)の支援を受けることが必須です。
● 申請期間
申請受付開始日 | 申請締切日(郵送) | 申請締切日(電子申請) |
---|---|---|
2025年7月1日 | 2025年7月31日(消印有効) | 2025年7月31日16時まで |
● 申請区分と補助内容(条件により異なります)
区分 | 補助限度額 | 補助率 | 条件 |
---|---|---|---|
賃金引上げ計画なし | 3,000万円 | 2/3以内 | 特に条件なし |
賃金引上げ計画あり | 3,000万円 | 3/4以内 | 給与総額の2%増、最低賃金+30円以上を達成する必要あり |
● 対象者の要件
申請できるのは、以下すべてを満たす東京都内の観光関連事業者です。
- 中小企業者(法人・個人事業主含む)
- 都内に本店または支店があり、2年以上継続して事業を営んでいる
- 観光客向けに商品・サービスを提供する業種(宿泊業、飲食、小売、旅行、体験事業など)
- 経営アドバイザーまたはDXナビゲーターの診断を受けたこと
- 暴力団排除条例に該当せず、納税や法令順守状況に問題がない
● 対象経費
分類 | 内容 |
---|---|
DX・デジタル化経費 | 顧客管理、予約、決済、AI分析、クラウド利用などのシステム導入費 |
設備導入費 | アクティビティ設備、体験型施設、独自機器等の製造・設置費 |
新商品・サービス開発費 | 商品開発、委託研究、翻訳、試作費、産業財産権関連費など |
2. 補助金が実施される背景
東京都の観光産業は、インバウンド回復や多様なニーズに対応する中で、「デジタル化の遅れ」「人手不足」といった課題が顕在化しています。
この補助金の目的は、中小の観光関連事業者がDXや新たな商品・サービスの開発を通じて、生産性向上と付加価値の創出を図ること。つまり、単なるIT導入ではなく、経営力そのものの強化が支援対象となるのが特徴です。
また、本制度は経営者単独で申請計画を立てるのではなく、経営アドバイザーやDXナビゲーターと共に計画を構築する「伴走型支援」である点も他の補助金制度とは異なります。
3. 審査方法と評価項目

この補助金は、一次審査(書類)と二次審査(面接)を経て採択が決定されます。
一次審査の視点
- 資格審査:対象条件を満たしているか
- 経理審査:経営基盤・財務状況が安定しているか
- 事業審査:以下の観点で評価されます
- 新規性(他にない取り組みか)
- 優秀性(計画の具体性や実現性)
- 市場性(ニーズがあるか、競争優位性があるか)
- 波及性(他企業や地域への影響)
- 適合性(東京の観光に貢献するか)
二次審査(面接)
代表者によるプレゼン形式で行われ、事業計画の理解度や熱意、現場の体制なども重視されます。
4. 採択されるためのポイント(事業計画作成のコツ)
ポイント①:経営課題と解決策を明確に
例:「業務が属人的 → 顧客管理システムを導入して業務標準化を図る」
ポイント②:定量的な目標を設定
例:「予約ミスを30%削減」「インバウンド売上を20%向上」
ポイント③:東京都の観光振興にどう貢献するかを強調
例:「東京の文化体験を強化することで、リピーター獲得を狙う」
ポイント④:事業の波及効果を示す
例:「周辺の商店街との連携で地域の回遊性を向上」
ポイント⑤:専門家の助言を最大限活用
アドバイザーとのやりとりで課題→解決策→成果予測を整理し、わかりやすく説明できるようにしましょう。
5. 過去の採択事例から学ぶ
以下は、前年度の類似補助金で採択された実際の事例です。
● 事例①:浅草の旅館(宿泊業)
- 課題:外国人予約増加に伴いフロント業務が煩雑
- 取組:多言語対応の予約・決済システム導入
- 成果:業務時間が月40時間削減、外国人利用率が150%増
● 事例②:体験型飲食店(飲食業)
- 課題:東京の食文化を体験できる場が少ない
- 取組:江戸前寿司の握り体験+多言語ガイドを導入
- 成果:SNS投稿が増加し、新規来店が前年比180%
● 事例③:地域特化型ツアー会社(旅行業)
- 課題:販路が限られていた
- 取組:自社予約サイト構築とAIによる販売分析
- 成果:直販比率が15%→60%に改善
まとめ:補助金を活用して“東京観光の未来”をつくる
「観光関連事業者のDX・経営力強化支援事業補助金」は、単なるデジタル化支援ではありません。観光事業者が経営課題を根本から見直し、未来に向けて再構築していくための“投資支援”です。
申請の準備には時間がかかりますが、経営アドバイザーとの相談を通じてブラッシュアップできる仕組みになっています。
東京都の観光産業をともにアップデートする一歩として、ぜひ本補助金の活用を検討してみてください。
また、申請を検討される際には、必ず募集要項で本助成金の申請条件や対象経費等を改めてご確認頂き、ご不明な点は事務局へお問い合わせ下さい。https://www.tcvb.or.jp/jp/project/R7_No.1_DXmgmt_Boshuyoryo.pdf