高齢化が進む日本社会において、中小企業の「事業承継」は重要な経営課題のひとつです。親族内での承継が難しくなるなか、「第三者承継(M&A)」が注目されるようになり、公的機関による支援も年々拡充しています。
本記事では、令和6年度における事業承継・引継ぎ支援センターの実績を詳しく紹介しながら、第三者承継の重要性や、実際の支援内容・事例について、中小企業診断士の視点から分かりやすく解説します。
なぜ第三者承継が注目されているのか?|中小企業の事業承継をめぐる背景
日本の中小企業の経営者の平均年齢は年々上昇し、現在では約7割が60歳以上とも言われています。しかし、後継者の不在により、黒字経営であっても廃業を選ばざるを得ないケースが多発しています。
こうした中で浮上してきたのが、「第三者承継(M&A)」という選択肢です。親族や従業員に限らず、社外の経営者や創業希望者に事業を引き継ぐ方法であり、事業の存続と雇用の維持、さらには企業の成長につながるケースも多く見られるようになりました。
令和6年度の第三者承継の実績|相談・成約ともに過去最高を記録
独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)は、全国48か所に設置された「事業承継・引継ぎ支援センター」の令和6年度の実績を公表しました。その中で特に注目すべきは、第三者承継(M&A)の成約件数が過去最高を更新したことです。
▶ 令和6年度の主な実績
- 事業承継に関する相談者数(累計):150,655者(うち令和6年度:23,000者超)
- 第三者承継に関する相談者数:16,045者(累計:約12万者)
- 第三者承継の成約件数:2,132件(過去最高)
- 後継者人材バンク 成約件数:106件(過去最高)
譲渡企業の内訳|業種・売上規模別の傾向を読み解く
令和6年度の実績では、あらゆる業種・規模の中小企業が第三者承継を実現していることが明らかになりました。
■ 業種別内訳(成約件数ベース)
業種 | 割合 |
---|---|
サービス業・その他 | 27.3% |
製造業 | 19.5% |
卸・小売業 | 18.1% |
宿泊・飲食サービス業 | 14.6% |
建設業 | 12.2% |
医療・福祉 | 5.3% |
運輸業 | 3.0% |
また、売上規模別では以下のようになっています:
- 3,000万円以下:36.1%
- 3,000万円超~1億円以下:31.9%
- 1億円超~5億円以下:27.0%
特筆すべきは、3,000万円未満の小規模事業者が全体の3分の1以上を占めている点です。事業規模の大小に関わらず、承継のニーズが広がっていることが分かります。
事業承継・引継ぎ支援センターの支援内容とは?
「事業承継・引継ぎ支援センター」は全国47都道府県に1か所ずつ設置されており、地域の中小企業に対して事業承継を支援しています。

■ 主な支援内容
支援内容 | 概要 |
---|---|
無料相談対応 | 事業承継に関する一般的な相談や課題の整理 |
M&Aマッチング支援 | 譲渡希望者と譲受希望者の橋渡し |
親族内承継のサポート | 相続・贈与や経営権の移譲に関する助言 |
後継者人材バンク | 創業希望者とのマッチングプログラム |
中立的な専門家の紹介 | 弁護士、税理士、M&A仲介業者などとの連携 |
これらの支援は、原則すべて無料で受けることができます。
支援事例の紹介|地域と企業を未来につなぐ承継ストーリー
■ 製造業 × 創業希望者
中部地方で工具部品を製造していた60代の社長が後継者不在を理由に廃業を検討。センターの紹介で、製造業経験のある40代の創業希望者が譲受人として登場。技術の伝承も進み、事業継続が実現。
■ 飲食業 × 地域活性化
九州地方の観光地で長年営業していた老舗飲食店。後継者人材バンク経由で移住希望の女性起業家とマッチング。地元食材を生かした新メニューが話題となり、地元の雇用も維持された。
まとめ|“会社をつなぐ”ことで地域も未来も守れる
事業承継・引継ぎ支援センターの実績は、単なる数字ではなく、「会社の命を未来へつなぐ」活動の積み重ねです。
- M&A成約:2,132件(過去最高)
- 後継者人材バンク成約:106件(過去最高)
- 支援を受けた中小企業:15万者以上(累計)
後継者がいないからといって、すぐに廃業を選ぶ必要はありません。公的な支援を活用し、未来の後継者と出会い、企業を次の世代へとバトンタッチする。それが、今求められている“賢い経営判断”です。
【公式サイト】
▶ 事業承継・引継ぎ支援センター:
https://shoukei.smrj.go.jp
【ご相談はこちら】
お近くのセンター窓口は公式サイトの「センター一覧」からご確認ください。