2025年6月16日、「中小企業省力化投資補助事業(一般型・第1回)」の採択結果が正式に発表されました。本補助金は、人手不足対策や業務の自動化・省力化を目的として、IoTやロボットなどのオーダーメイド設備導入を支援するものです。
この記事では、中小企業診断士の視点から、補助金の基本概要、採択結果の傾向、実際に採択された具体的な事例、そして次回(第3回)の公募スケジュールまで徹底的に解説していきます。
補助金の概要(中小企業省力化投資補助事業・一般型)
「中小企業省力化投資補助事業(一般型)」は、次のような目的で設計された補助制度です。https://shoryokuka.smrj.go.jp/ippan/
- 目的: 中小企業・小規模事業者が人手不足へ対応するための、業務の省力化・自動化・効率化を目的とした設備投資を支援
- 補助対象: IoT・ロボット・AI等を活用した「専用設備(オーダーメイド設備)」の導入
- 対象経費: 機械装置・システム構築費(必須)、技術導入費、クラウドサービス利用費、外注費など
補助上限額と補助率
従業員数区分 | 通常枠の上限額 | 賃上げ特例適用時の上限額 |
---|---|---|
5人以下 | 750万円 | 1,000万円 |
6人〜20人 | 1,500万円 | 2,000万円 |
21人〜50人 | 3,000万円 | 4,000万円 |
51人〜100人 | 5,000万円 | 6,500万円 |
101人以上 | 8,000万円 | 1億円 |
補助率:
- 中小企業:1/2(補助額1,500万円以下の部分、賃上げ特例時は2/3)
- 小規模事業者・再生事業者:2/3(補助額1,500万円以下の部分)
- 上記を超える額に関しては1/3
採択結果の概要
採択件数:全国で1,240件(採択率68.5%)
- 申請数1,809件に対して採択数は1,240件、実質的に全国規模で幅広く採択
- 47都道府県すべてで採択事業者あり
主な業種内訳:
業種 | 採択割合 |
---|---|
製造業 | 61.7% |
建設業 | 11.3% |
卸売業・小売業・サービス業など | 27%(合算) |
製造業と建設業を中心に、人手不足を伴う工程の自動化が多く見られました。
都道府県別 採択件数上位
- 大阪府:124件
- 愛知県:108件
- 東京都:93件
- 福岡県:49件
- 兵庫県:47件
都市圏だけでなく、地方都市からの採択も目立ちます。
採択事例①|製造業(グリーン水素用部品の溶接工程自動化)

導入前の課題
- 加工材溶接の作業は熟練技術者による長時間の手作業に依存していた。
- グリーン水素関連市場の拡大により、電解槽部品の需要が急増しているが、対応できず顧客離れのリスクがあった。
- 新人が一人前の溶接技術者に育つまでに時間がかかり、短期での人材確保が難しい。
導入する設備
- 3Dスキャナー搭載溶接ロボット:オーダーメイドで製造現場に最適化。
- 産業用ロボット本体
- 3Dスキャナー(溶接箇所を自動検出)
- 溶接機
- ポジショナー(溶接角度調整)
導入後の効果
- 熟練者に頼る属人的な工程を自動化・標準化できた。
- 品質の均一化と生産性向上を両立し、人手不足を解消。
- 余剰人員を品質管理や顧客対応に再配置し、全体の受注率・顧客満足度の向上にもつながった。
採択事例②|建設業(鉄筋加工工程のQR連携による自動化)
導入前の課題
- 紙図面をもとにした手入力での加工指示が必要で、人為ミスが多発。
- ベテランの手作業に依存しており、ミスや工程の手戻りによりコスト・納期の面で問題が発生していた。
導入する設備
- CAD図面・加工帳自動作成システム
- 加工指示書QRコード連携システム
- 鉄筋自動加工機(曲げ装置)
導入後の効果
- 加工指示がQRコード化され、機械が自動で内容を認識。
- 人的ミスを排除し、品質の安定とコスト削減を実現。
- 技術者は新規案件や若手育成に注力できるようになり、組織としての対応力も向上。
採択事例③|小売業(青果加工の自動化)
導入前の課題
- 主力の青果加工を手作業に依存していたため、品質や歩留まりにバラつきがあった。
- 慢性的な人員不足により、新商品開発や販路拡大などの成長戦略に割く人材が確保できなかった。
導入する設備
- オートフルーツカッター(カット・皮むき・芯抜きが一体化)
- オートラベラー(自動ラベル貼付)
- ※既存の生産ラインに組み込むため、一部カスタマイズされた構成
導入後の効果
- 青果加工工程の自動化によって省力化が進み、人手不足を解消。
- 新たに創出された余力を新商品や販路開拓に投入し、売上増加に寄与。
- 加工精度・品質の安定化により、リピーター顧客の増加も期待される。
採択事例④|宿泊業(フロント業務のデジタル一元管理)
導入前の課題
- 予約管理や顧客情報の入力をすべて手作業で行っており、フロントスタッフの業務負荷が高かった。
- チェックイン時に顧客を長時間待たせてしまうなど、サービス品質に課題があった。
導入する設備
- 宿泊業務一元管理システム
- 予約、会計、顧客管理、Webサイト運用までを連動
- リアルタイムな予約状況の更新も可能
導入後の効果
- 業務のデジタル一元化でフロント業務が大幅に効率化。
- 顧客の事前要望把握や宿泊後のフォロー対応など、付加価値の高いサービス提供が実現。
- 人員を営業・商品企画に振り向けられるようになり、客単価・稼働率ともに向上が見込まれる。
通りやすい事業計画の特徴とは?
今回の採択傾向から、補助金申請において評価されやすいポイントがいくつか見えてきます。
属人化工程の自動化
熟練者の手作業による工程を、設備によって標準化・自動化する計画が評価されやすい傾向にあります。製造業の溶接工程や、飲食業のフライヤー操作などが好例です。
業務プロセス全体の改善
単一の設備導入だけでなく、関連工程の見直しや業務フロー全体を最適化する取り組みが求められています。QRコード連携による加工機の連携自動化(建設業)が代表例です。
省力化による事業拡大の可能性が明確
削減された労力を新規開拓・企画・品質管理などの戦略分野に転用する計画が高く評価されており、成長性の裏付けとして強くアピールできます。
次回(第3回)公募のスケジュール【2025年6月16日現在】

公式サイト(https://shoryokuka.smrj.go.jp/ippan/schedule/)によると、次回(第3回)のスケジュールは以下のとおりです。
スケジュール項目 | 予定日 |
---|---|
公募開始 | 2025年6月中旬(予定) |
申請受付開始 | 2025年8月上旬(予定) |
申請締切 | 2025年8月下旬(予定) |
採択結果発表(予定) | 2025年11月下旬(予定 |
今後の公募情報は、以下の公式サイトで随時更新されます。
👉 省力化補助金公式ページ(スケジュール)
まとめ|省力化補助金を経営戦略として活かすために
中小企業省力化投資補助事業(一般型)は、単なる「設備投資」ではなく、経営改革・組織改善の一環としての投資が求められる制度です。
今回の採択事例からも分かるように、
- 属人的な業務を標準化・自動化
- 業務フロー全体の効率化を目指す
- 省力化で生まれた余力を戦略業務に転用
- 結果として、賃上げ・付加価値向上を達成
という一連のストーリーを明確に描けるかが、採択における重要なポイントです。
今後の補助金活用に向けては、次のステップを意識しましょう:
今から準備すべきポイント
- 自社の「人手がかかっている工程」を洗い出す
- その工程に適した省力化設備を調査する
- 設備導入後の効果(時間・人員・コスト)を数値で示す
- 浮いたリソースの活用計画(販路開拓・品質強化など)を明記
補助金は単なる資金支援ではなく、事業戦略に沿った“経営の武器”です。制度の趣旨を正しく理解し、より本質的な改善を目指すことが、採択への近道です。