2025年6月、経済産業省が新たに始動した中小企業向け成長支援策「100億宣言」の初回公表が行われました。これは単なるスローガンではなく、野心的な成長を志す中小企業が「売上高100億円」を明確な目標として掲げ、自らの手で実現へ踏み出すための本格的な取組支援の枠組みです。
この記事では、「100億宣言」の概要から、初回公表された企業事例までを分かりやすくご紹介し、読者の皆様にとって実務に役立つ気づきをお届けしたいと思います。
「100億宣言」とは何か?
「100億宣言」は、売上高10億円以上100億円未満の中小企業が、自社の意思で「売上高100億円」を目指すことを公に宣言し、その実現に向けた戦略・体制・具体的措置を明示する新たな取組です。https://growth-100-oku.smrj.go.jp/
この宣言には、以下のような項目を記載することが求められています:
- 現在の企業概要(売上高、従業員数等)
- 100億円達成までの期間・成長目標・課題
- 実現に向けた戦略(例:新工場建設、海外展開、M&Aなど)
- 実施体制
- 経営者のコミットメント(メッセージ)
ここで重要なのは、「宣言する」こと自体が目的ではなく、成長の意思と戦略を対外的に示すことで、資金調達・人材確保・パートナーシップ形成を加速させ、企業の成長に拍車をかけるという点にあります。
さらに、宣言した企業は政府運営のポータルサイトにてその内容が「見える化」され、今後の政策支援やネットワーキングにもつながります。
支援メニューも充実
「100億宣言」を行った企業は、以下のような制度活用が可能になります。
- 中小企業成長加速化補助金
- 経営強化税制の拡充(租税特別措置法の成立を前提)
- ロゴマークによる企業ブランディング
- 経営者ネットワークへの参画機会(業種・地域を超えた連携)
このように、「宣言することで経営リソースが集まる」好循環を生み出す設計となっています。
初回公表の概要
1,500件を超える申請件数(6月9日(月曜日)時点)のうち、311件の公表(6月9日(月曜日)までに申請があったもののうち、事務局の確認が完了したもの)を行いました。申請件数(6月9日(月曜日)時点)の内訳として、売上高の規模については10億円台から90億円台まで幅広い規模から、業種についても、製造業、卸売業・小売業、建設業、運輸業・郵便業、宿泊業・飲食サービス業、情報通信業など、多様な業種から申請があり、また、全ての都道府県の企業から宣言の申請がありました。
初回公表案件:愛知プラスチックス工業株式会社の挑戦

「100億宣言」の初回公表企業として取り上げられたのが、愛知県蒲郡市に本社を構える愛知プラスチックス工業株式会社です。
企業概要
- 事業内容:プラスチックフィルムの製造販売および資源循環ビジネス
- 従業員数:87名(2025年5月現在)
- 売上高:35億円(2024年12月期)
- 設立:70年以上の歴史を持つ老舗企業
- URL:https://aipla.jp/
同社は長年にわたり、プラスチックフィルム分野で高機能・高品質な製品を提供し、電池、自動車、食品、医療など幅広い業界のニーズに応えてきました。
成長戦略のポイント
2036年に売上高100億円達成を目指し、11年で年平均10%の成長を計画しています。その実現のために以下のような戦略を掲げています。
- 高機能フィルムの生産能力増強:新工場・新設備を導入し、品質と供給体制を強化。
- 資源循環ビジネスの推進:リサイクル設備導入や二次加工内製化によって、持続可能な成長を図る。
- 海外市場への拡販:特にインド市場を中心に、新興国向け輸出を強化。
- M&Aや企業連携による事業拡張:自社モデルの横展開を検討。
- 人材育成と確保:環境・技術・海外営業・マネジメントの各分野で人材を強化。
「100億宣言」が持つ意義と可能性
今回の宣言制度の背景には、日本経済が「コストカット型」から「投資と成長型」への移行を目指しているという大きな政策転換があります。
中小企業が売上高100億円を達成するというのは、一見すると非現実的に感じられるかもしれません。しかし、それは従来の発想にとらわれた見方にすぎません。
- 中小企業が地域の雇用と付加価値の中心的担い手であること
- 適切な戦略・支援・ネットワークがあれば飛躍的成長は可能であること
- 経営者の本気のコミットメントが社員の士気と社外の信頼を呼び込むこと
これらの観点から、「100億宣言」は単なる目標設定にとどまらず、企業の変革の起点となりうる取り組みなのです。
経営者・支援者にとっての示唆
本宣言制度は、中小企業診断士をはじめとする支援者にとっても、新たな支援の機会を示しています。
- 宣言支援による成長戦略の策定サポート
- 具体的なKPI設定とモニタリング体制の構築
- 補助金活用における申請支援
- 自治体・商工会議所との連携促進
これまでの支援が「現状維持」や「リスク回避」にとどまっていた場合、「100億宣言」は支援の質そのものを大きく引き上げる起爆剤になり得ます。
また、愛知プラスチックス工業のような事例が今後増えることで、成功モデルが広がり、より多くの企業が挑戦しやすくなる土壌が育まれていくでしょう。
まとめ:「本気で目指す」成長への新たな選択肢
「100億宣言」は、成長意欲のある中小企業にとって、政府・支援機関・金融機関と連携しながら大胆に未来を切り開くための、新たなプラットフォームです。
中小企業の経営者の方々にとっては、「自社も100億円を目指せるかもしれない」という視点から、自社の成長戦略を見直す絶好の機会と言えます。