中小企業のデジタルシフトはなぜ進まないのか?調査結果に見る課題と現場のリアルな声

政策

近年、中小企業にとっての重要課題の一つが「デジタルシフト」、いわゆる業務のデジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進です。

東京都内の中小企業1,218社を対象に行われた最新調査「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査(2025年1月 東京商工会議所)」では、約8割がITを「導入」していると回答する一方で、真に活用している企業はわずか5割程度にとどまっています。

本記事では、調査結果をもとに、特に注目すべき以下の3点について解説します。

  • 中小企業が抱える「デジタルシフトの課題」とは?
  • 現場の経営者・担当者が語る“生の声”
  • 企業が求めている支援策の内容とは?

東京商工会議所 中小企業のデジタルシフト・DX実態調査https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1205203


デジタルシフトの最大の壁は「コスト」と「人材」

調査で最も多くの企業が課題として挙げたのは、コスト負担の問題でした。デジタルシフトに取り組む上で、「導入コストが高い」「ランニング費用がかかる」「更新時に補助金が使えず困っている」など、資金面での不安が広く共有されています。

さらに、「旗振り役がいない」「ITが使いこなせない」「適切なツールが選べない」といった人材・ノウハウ不足も深刻です。調査では、次のようなデータが示されています。

  • 「コストが負担できない」:31.9%
  • 「旗振り役が務まる人材がいない」:31.0%
  • 「従業員がITを使いこなせない」:26.4%
  • 「業務に合ったツールが見つからない」:22.4%
  • 「効果が分からず評価できない」:22.1%

特に小規模企業(従業員5人以下)では、社内にIT専任担当者を持つ割合が10%未満にとどまっており、兼任や外部委託も難しい状況が浮き彫りになっています。


現場のリアルな声:「こんなところでつまずいている」

今回の調査では、各企業の具体的な取り組みと、その中で感じている課題について、実に生々しい声が多数寄せられています。いくつか抜粋してご紹介しましょう。

導入がうまくいったケース

  • 「Web型の受発注システムに変えてから、注文ミスが激減した。納品の精度も上がった」(製造業・21〜50人)
  • 「ChatGPTを活用してWeb集客を強化。SEOの効果が出てきた」(サービス業・5人以下)
  • 「LINEやZoomの導入で、顧客とのやり取りがスムーズになった」(不動産業・6〜20人)
  • 「クラウド型の勤怠管理により、サービス残業を抑制し、働き方改革が実現」(運輸業・21〜50人)

これらは、比較的規模が大きかったり、経営者がデジタルに前向きだったりするケースです。

うまくいかない、または踏み出せない理由

  • 「補助金は導入時しか使えず、更新や維持費がまかなえない」(卸売業・5人以下)
  • 「高齢の担当者が紙帳簿に慣れており、デジタル化に抵抗がある」(小売業・6〜20人)
  • 「社員が多忙でDXを進める余力がない。外注するとコストが高すぎる」(建設業・51〜100人)
  • 「ツールは増えたが、誰も全体を統括しておらずバラバラ」(情報通信業・21〜50人)
  • 「ベンダーの対応にバラつきがあり、相談先に迷う」(製造業・51〜100人)

こうした声からは、「技術」ではなく「組織と人」の問題こそが、デジタルシフトの本質的な課題であることが見えてきます。


支援策へのニーズは“お金”と“情報”の両立

調査では、「どのような支援を求めるか?」という質問に対して、以下のような回答が得られています。

  • 補助金・助成金:59.3%
  • 支援制度の情報提供:27.9%
  • デジタルツールに関する情報:26.7%
  • 他社の成功事例:23.9%
  • 専門家による伴走支援:21.3%

この結果から見えてくるのは、単に「資金支援」だけでなく、選択肢を見極めるための情報提供とナビゲーションへのニーズが非常に高いということです。

例えば、IT導入補助金や事業再構築補助金など、国の施策は数多く存在しますが、「自社にとってどれが最適か分からない」「使いこなせる人がいない」といった声が多く聞かれます。

また、「他社がどうやって成功したのかを知りたい」というニーズは非常に強く、自社のDX計画を描くうえでの“参考モデル”を求めている中小企業は少なくありません。


成功している企業に共通するものとは?

今回の調査結果や企業の声から、中小企業のデジタルシフトに成功している企業にはいくつかの共通点が見えてきます。

  1. 経営者が前向きである
  2. 社内に旗振り役(リーダー)がいる
  3. 段階的に、できるところから進めている
  4. 外部の専門家・支援機関を上手に使っている
  5. 成果が見えるように評価と改善を繰り返している

特に「段階的に進める」という視点は重要です。一気に業務全体を変えようとするのではなく、たとえば受発注業務だけをデジタル化するといったスモールスタートが多くの成功例で実践されています。


まとめ:デジタルシフトは「できることから、少しずつ」が正解

東京商工会議所の調査によると、確かに中小企業の多くはデジタルシフトを進めており、一定の成果も出ています。しかしその一方で、多くの企業がコストや人材不足、ノウハウの壁に直面しています。

私たち中小企業診断士や支援者が果たすべき役割は、複雑なITやDXの世界を、経営者の言葉でわかりやすく伝えることです。そして、必要な情報や人材との“橋渡し役”になることではないでしょうか。

この調査から得られた知見は、単なる数字ではなく、リアルな経営現場の声として、多くの中小企業のヒントになるはずです。

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