近年、中小企業や中堅企業の成長を左右する要素として「知的財産(知財)」と「無形資産」の活用が注目されています。技術やブランド、ノウハウといった目に見えない資産は、うまく使えば新しい市場の扉を開き、競争力を大きく引き上げます。
しかし、「知財は特許や商標だけ」「専門家に任せれば十分」と考える企業も少なくありません。そんな課題を解決するためにスタートするのが、経済産業省関東経済産業局による 「知財を企業の強みに!『稼ぐ力』向上プロジェクト」(知財経営推進ベストプラクティス創出事業)です。
2025年度は、中小企業診断士や弁理士、ブランド専門家など複数のプロがチームとなり、知財経営を実践的に支援します。ここでは事業の概要に加え、令和6年度の実際の成果事例をご紹介します。
事業の目的
このプロジェクトの目的は、知財や無形資産を“見える化”し、企業の稼ぐ力を高めることです。
対象は関東経済産業局管内(茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・東京・神奈川・新潟・山梨・長野・静岡)に本社を置く中小企業・中堅企業。経営戦略に知財を組み込み、事業承継や新規事業開発を進めたい企業に向け、専門家チームが無料で伴走支援を行います。
事業の内容
支援は6〜7回(各2〜3時間程度)にわたり、
- 経営課題の整理
- 知財・無形資産の棚卸
- 解決策・戦略の検討
- アクションプラン策定
- 成果事例集作成
という流れで実施されます。
中小企業向けには「事業承継に伴う知財・無形資産の引き継ぎ支援」を、中堅企業向けには「知財戦略策定や新事業開発支援」を提供。必要に応じて、特許情報と市場情報を統合分析するIPランドスケープも行います。
支援はいずれも無料で受けることができます。
申請要件
応募するには、以下の条件を満たす必要があります。
- 中小企業基本法に基づく中小企業、または常用従業員数2,000人以下の中堅企業
- 事業期間(2025年9月〜2026年1月)に6〜7回の支援を受けられること
- 成果事例集の作成・公表に協力できること
- 成果報告会に参加可能であること
- 反社会的勢力でないこと
応募の手続き
応募期間は2025年7月24日(木)〜8月18日(月)17時まで。
提出書類は「応募申込書」1部のみで、メールで事務局宛に送付します。件名には必ず「知財を企業の強みに!『稼ぐ力』向上プロジェクト」と記載してください。
その他の特徴
- 専門家チームによる多角的支援
- 年度末の成果報告会後には交流会を開催予定
- 説明会は7月30日(水)13時〜15時にオンライン開催済みであるが動画配信ありhttps://www.youtube.com/watch?v=Rh0oibL5-HY
令和6年度の成果事例3選

ここからは、昨年度の参加企業がどのように知財経営の力を伸ばしたのかを具体的に見ていきます。
事例1:川口スプリング製作所株式会社(埼玉県)
テーマ:親族内承継における顧客への価値提供から紐解く自社の強みの特定と引き継ぎ
同社は各種スプリングの製造・販売、自動塗装機の製造・販売を主力とするメーカー。事業承継を控える中、現社長が持つノウハウや取引先との関係性などの無形資産が明文化されていないことが課題でした。
プロジェクトでは、業務フローに沿って知的資産を洗い出し、現社長の関与度を評価。特に顧客への提案力など、承継優先度の高い資産を明確化しました。また、顧客が同社を選ぶ理由を整理し、「価値創造ストーリー」として体系化。これにより、新経営陣が暗黙知を共有し、承継後の戦略を描ける基盤を確立しました。
事例2:シナノケンシ株式会社(長野県)
テーマ:様々な知的資産を用いて新たなビジネスを生み出す
精密小型モータメーカーの同社は、従来は技術を起点に新規事業を考えていましたが、市場発想の不足に課題がありました。
支援では、MFTフレームワークを用いて市場ニーズから必要な技術を整理し、その技術を基に新たな市場を創造するワークショップを実施。宇宙事業や車載機器分野など、既存の想定を超える市場アイデアが生まれました。参加者は「自社の知的資産に目を向けた瞬間に視野が広がった」と振り返っています。
事例3:ユシロ化学工業株式会社(神奈川県)
テーマ:IPランドスケープを活用して新事業展開に向けた調査・分析を実施
金属加工油剤のトップメーカーである同社は、知財を活かした経営戦略の構築に課題を抱えていました。
プロジェクトでは、特許情報を分析し、事業展開の可能性がある顧客候補を抽出。短期・中期・長期のアクションプランを策定し、経営陣に提案しました。知財部門と営業部門の連携強化にもつながり、「特許情報をビジネス戦略に活かす手法を習得できた」との評価が寄せられています。
まとめ
「知財を企業の強みに!『稼ぐ力』向上プロジェクト」は、単なる知財管理支援ではなく、企業の成長戦略そのものを後押しする取り組みです。昨年度の事例が示す通り、暗黙知の可視化、新市場の発想、特許情報の活用といったアプローチで、企業は大きな飛躍のきっかけを得ています。
2025年度の募集締切は8月18日。自社の未来を切り拓く第一歩として、この機会を活用してみてはいかがでしょうか。
申請を検討される際には必ず募集要項等をご確認下さい。
公募情報https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/chizai/r7fy_kigyo_koubo.html
募集要項https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/chizai/data/r7_best_p_koubo_youryo.pdf