日本の中小企業を取り巻く経営環境は、人手不足の深刻化、採用難、従業員の定着率低下など、年々厳しさを増しています。 こうした中で、近年あらためて注目されているのが「女性活躍推進」です。
「女性活躍というと大企業の話ではないか」「制度対応が大変そうだ」と感じる経営者の方も多いかもしれません。 しかし、東京商工会議所が公表した 「企業の女性活躍推進の取り組み状況に関するアンケート」の結果を見ると、 女性活躍推進は単なる社会的要請ではなく、 中小企業の人材確保・定着という経営課題に直結する重要テーマであることが明らかになっています。
調査概要:中小企業の実態を反映した689社の声
今回の調査は、女性活躍推進法の成立から10年が経過した節目に実施されました。 調査期間は2025年10月28日から11月19日まで、Webアンケート方式により、 企業の経営層や人事担当者など689社から回答を得ています。
回答企業の多くは中小企業で、従業員規模は「5人以下」から「300人以下」が中心です。 業種も建設業、製造業、卸売・小売業、宿泊・飲食業、介護・看護業など幅広く、 日本の中小企業の実態をよく表した調査といえるでしょう。
6割超の企業が「人手不足」――深刻化する採用難
まず注目すべきは、人員の充足状況です。 調査によると、「人員が不足している」と回答した企業は全体の63.0%に達しています。
特に不足感が強い業種としては、運輸業、建設業、宿泊・飲食業、 情報通信・情報サービス業、介護・看護業が挙げられています。 いずれも中小企業が多く、慢性的な人手不足に悩まされている業界です。
ここで重要なのは、「人手不足」と「女性活躍推進」が別々の問題ではないという点です。 調査結果を詳しく見ると、 女性比率が高い企業ほど、人員が充足している傾向がはっきりと表れています。
女性比率が高い企業に共通する3つの特徴
仕事内容・責任の範囲が明確である
女性比率が高い企業では、 「どのような仕事を担当し、どこまで責任を持つのか」が明確に整理されています。 これは女性に限らず、すべての従業員にとって働きやすさにつながります。
多様な働き方が選択できる
テレワーク、時差出勤、フレックスタイム制など、 ライフスタイルに応じた働き方が選べる環境を整えている企業ほど、 女性の定着率が高い傾向が見られます。
出産・育児・介護との両立支援が充実している
出産や育児、介護と仕事を両立できる体制が整っていることも、 女性比率が高い企業の大きな特徴です。 こうした取り組みを積極的に発信している点も注目されます。
多くの企業が抱える女性活躍推進の課題

女性の活躍・キャリアアップ支援について、 全体の72.7%の企業が「何らかの課題を感じている」と回答しています。
特に多かった課題は、 「本人が現状以上の活躍を望まない」 「育成のための仕組みやノウハウが不足している」 「管理職の指導力が不足している」 といった項目です。
ここで誤解してはいけないのは、 「本人が活躍を望まない」という回答が、 必ずしも意欲の低さを意味しているわけではないという点です。
活躍の“先”が見えないことがブレーキになっている
活躍した先にどのようなキャリアがあるのか、 負担ばかりが増えるのではないか、 そうした不安が女性社員の意欲を抑えている可能性があります。
6つの取り組み分野と「実行できている企業」の違い
調査では、女性活躍推進の取り組みを次の6分野に分けて分析しています。
- 採用・配置
- 働き方改革
- 両立支援
- 職場の意識改革
- 育成・キャリアアップ
- 働く環境の整備、認定制度の活用
いずれの分野でも「必要性を感じている」と回答した企業は9割前後にのぼります。 一方で、「十分に取り組んでいる」と回答した企業は2割前後にとどまっています。
しかし、女性比率が高い企業や人員が充足している企業では、 これらの取り組みが着実に進んでいることが分かりました。
中小企業診断士の視点:女性活躍推進は経営改善そのもの
中小企業診断士として多くの現場を見てきた立場から言えば、 女性活躍推進は「女性のための施策」ではありません。
仕事内容の明確化は業務効率を高め、 多様な働き方は若手やベテランの定着につながり、 意識改革や育成制度の整備は組織全体の生産性向上をもたらします。
調査結果が示しているのは、 女性活躍推進に真剣に取り組む企業ほど、人材が集まり、定着しやすい という明確な傾向です。
まとめ:女性活躍推進は人手不足時代の経営戦略
女性活躍推進は、法対応やイメージアップのための取り組みではありません。 人手不足が深刻化する時代において、 中小企業が持続的に成長するための重要な経営戦略です。
完璧な制度を一度に整える必要はありません。 まずは、自社の現状を見直し、 「女性が活躍する姿を描けているか」を考えることが第一歩となります。
今回の調査結果をヒントに、 自社なりの女性活躍推進に取り組むことが、 結果として採用力・定着力の向上につながるはずです。


