【2025年改正】下請代金支払遅延等防止法・下請中小企業振興法のポイントをわかりやすく解説

法律・税務・雇用

中小企業や小規模事業者にとって「取引の公正さ」は事業の安定・成長に直結する重要な課題です。特に下請事業者は、親事業者との取引条件によって大きな影響を受ける立場にあります。

2025年5月16日に成立した「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」は、こうした中小企業を取り巻く取引環境をより健全なものとするための大きな一歩です。なお、本改正は2026年1月1日に施行予定です(ただし、一部の規定は本法律の公布の日から施行。)。https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2025/250516shitauke.html

本記事では、今回の改正内容を以下の4つの観点から分かりやすく解説します。


 法律の概要:どんな改正が行われたのか?

今回の改正では、主に以下の3点が盛り込まれました。

 下請法違反企業の公表制度の法定化

これまで行政指導にとどまっていた「違反企業の社名公表」が、法律に明記されました。これにより、違反行為を行った親事業者に対し、より強力な抑止力が働きます。

 違反行為の抑止力強化

違反時の対応について、経済産業大臣または公正取引委員会が「公表を含む措置を講じることができる」と明文化。これにより、行政側の権限と透明性が高まり、実効性のある対応が期待されます。

 中小企業振興法における「振興基準」の法定化

これまで告示ベースで定められていた「振興基準」が法令に格上げされました。これにより、基準に基づいた支援や指導の正当性が高まります。


 法律改正の背景:なぜこのタイミングなのか?

今回の法改正の背景には、中小企業の取引環境における課題が顕在化していたことが挙げられます。

特に以下のような問題が指摘されてきました:

  • 代金の不当な減額支払遅延
  • 一方的な取引条件の変更
  • コスト転嫁の困難

近年、エネルギー・原材料の高騰や人件費の上昇により、下請中小企業の経営はますます厳しくなっています。それにもかかわらず、こうしたコスト増加を価格転嫁できないケースが後を絶たず、「取引の適正化」に向けた法整備の必要性が高まっていました。

また、「パワーバランス」に依存する商習慣が残っている日本の取引構造において、法的な後ろ盾の強化は不可欠であると判断されたのです。


 法律に基づく国の取り組み:どんな施策があるのか?

法改正を受けて、国(経済産業省・中小企業庁)は以下のような取り組みを進めています。

 「価格交渉促進月間」の継続と強化

毎年3月と9月に実施されている「価格交渉促進月間」では、親事業者と下請事業者の交渉状況を調査・公表しています。改正法に基づき、この取り組みの信頼性と影響力が一層強化されます。

 違反事業者に対する「警告」や「社名公表」

改正後は、違反行為を行った親事業者に対し、経済産業大臣や公正取引委員会が社名を公表することで社会的な制裁が発生します。企業イメージを損なうリスクがあるため、親事業者の法令順守意識が高まる効果が期待されます。

 指導・助言の制度的整備

中小企業振興法のもとで「振興基準」が法制化されることにより、行政や商工会などの支援機関によるアドバイスや指導の根拠が明確になります。これにより、中小企業が安心して支援を受けられる環境が整備されます。

  「下請」等の用語の見直し

用語について、「下請事業者」を「中小受託事業者」、 「親事業者」を「委託事業者」等に改めます。あわせて、「下請代金支払遅延等防止法」を「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に、「下請中小企業振興法」を「受託中小企業振興法」に改めます。


 中小企業者のメリット:どんな良いことがあるのか?

この法改正によって、中小企業には以下のような実利的なメリットが期待されます。

 不当な取引慣行の抑止

親事業者による不当な取引条件の押し付けや代金の未払い・減額などに対して、法的保護が強化されることで、安心して取引を行えるようになります。

 価格交渉の後押し

エネルギーコストや原材料費の上昇分を、正当な形で価格に反映させやすくなります。中小企業庁の「パートナーシップ構築宣言」などと連携することで、取引条件の改善に向けた働きかけもしやすくなります。

 支援機関のサポートが受けやすくなる

「振興基準」が法定化されたことで、商工会議所や中小企業支援センターなどが行う支援活動の信頼性が向上します。自社だけで悩まず、支援機関に相談しやすくなります。


【考察】中小企業の「声」が反映された改正

今回の法改正は、まさに現場の中小企業の「声」が形になった事例だといえるでしょう。
実際、経済産業省は改正前にアンケート調査や意見募集を行い、実情を把握したうえで今回の法案を策定しています。

これは「対等な立場での取引」が日本の経済においてますます重要になるという時代背景を反映した動きでもあります。

一方で、法律だけで全てが改善されるわけではありません。中小企業側も知識を持ち、適切な主張や交渉を行う必要があります。今回の法改正をきっかけに、支援機関や専門家の力を借りながら、より良い取引関係を築く意識が求められています。


【まとめ】

2025年の「下請代金支払遅延等防止法」および「下請中小企業振興法」の改正は、中小企業の健全な取引環境づくりに向けた重要な一歩です。

本記事のまとめポイント:

  • 違反事業者の社名公表が法律に明記された
  • 振興基準が告示から法令に格上げされ、支援の根拠が明確に
  • 中小企業が価格交渉しやすい環境が整備されつつある
  • 不当な取引慣行に対する法的保護が強化された

中小企業診断士や支援機関と連携しながら、改正法を活用した経営改善を図っていきましょう。


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